約 1,827,526 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/318.html
「さすがは魔法学院本塔の壁ね・・・・。物理衝撃が弱点?あの禿のオッサン適当な事言って・・・・」 そういって巨大な2つの月の下で舌打ちをしたのは『土くれのフーケ』、今最もトリステインで有名な神出鬼没な怪盗である ちなみに土くれとは盗みの技からつけられたものであり、その一例にまず『錬金』によって扉や壁を土くれに変えて警備を無力化、 そして巨大ゴーレムによる力技で兵士達を蹴散らし白昼堂々とお宝を盗む 最後に犯行現場自分のサインを置いていく、こんな感じである そして今回もこのトリステイン魔法学院に安置されているマジック・アイテムを頂きに来たのであった 「せっかくここまで来たんだから何としてでも持ち帰りたい・・・・、ん?」 人の気配を感じたのかフーケは『レビテーション』を小さく唱え、宙を浮き静かに中庭の植え込みに消えた そして代わりに現れたのはルイズ、キュルケ、風竜に乗ったタバサ、そして二本の剣を抱えたロムであった 少し時間を遡る 「あんた・・・・その剣はなんなの?」 「見ればわかるじゃない、ロムへのプレゼントよ」 「・・・・・・・・」「・・・・・・・・」 ルイズ達が街に買い物に行ったその夜、修羅場の第2ラウンドがルイズの始まろうとしていた 「どういう意味ツェルプトー?」 ルイズが両手を腰に付け天敵キュルケを睨む そしてルイズの問い掛けにキュルケが悠然と答える 「だから、私今日、ロムが欲しがっていた剣を街まで行って買ってきたのよ」 「おあいにく様、使い魔の使う道具くらい主である私が揃えてあげましたから」 二人が虎と竜の如くにらみ合いを始める 一方ロムは (レイナもこんな風に他の女性と喧嘩していたな・・・・、それにしてもこれではまた決闘になってしまう! 早く止めなければ) 「なあ二人ともそろそろ止めにしないか」 「ちょっと!あんたまたこの女に尻尾を振る気!?」 ルイズがロムを睨む 「いや、そうではないが」 「ねぇロム?あなたはゼロが買ったボロい剣よりも 私が買ったこのピカピカで大きくて太い剣の方がいいでしょ?」 キュルケがロムの腕に大きな胸を押し付けながら言う デルフリンガーがカタカタ震えているが今は気にならなかった 「だ~れがゼロですって!それにそいつから離れなさいよツェルプトー!!」 「嫉妬はみっともないわよ?ヴァリエール」 キュルケが勝ち誇った感じで言った 「嫉妬?誰が嫉妬しているのよ!」 「そうじゃない、ロムが欲しがってた剣をあたしが難なく手に入れてプレゼントしたから嫉妬しているのよ!」 「誰がよ!そんな勘違いやめてよね!ゲルマニアで男漁りし過ぎたからトリステインまで留学してきた癖に!!」 その一言でここまでまで優位だったはずのキュルケの顔色が変わった 「言ってくれるわねヴァリエール」 「何よ、本当の事でしょ?」 キュルケの変化に気付いたルイズは冷たい笑みを浮かべながら挑発を続ける そして同時二人は手に杖に手をかけた 「いかん!二人とも止めてくれ!」 ロムは二人を止めようとした所で二人の間につむじ風が巻き起こり杖が吹き飛ぶ 出所はタバサであった 「室内」 タバサが淡々と言った ここでやったら危険だと言いたいのだろう それでもルイズとキュルケはにらみ合いを続けた 「ねぇ、このままでは埒があかないわ、決闘をして勝った方の剣をロムが持つことにしない?」 「いいわよ、負けた後に泣きべそかかない用に努力しなさいよ」 「それはこっちのセリフよ!」 遂に恐れていた事が現実になった事にロムは落胆した 決闘の場所は中庭の本塔前に決まり四人は部屋を後にした ロムも二本の剣を持って部屋を出ようとした時こんな声が聞こえた気がした 「・・・・御愁傷様」 「何故こうなるんだ・・・・」 「これが一番早く決まる」 「君はひょっとして楽しんでいないか?」 ロムの問い掛けにタバサが小さく答える タバサは風竜に乗って飛んでいるがロムはロープで本塔に吊るされていた 「いいことヴァリエール!あのロープを切ってロムを地面に落としたほうが勝ちよ。勝った方の剣をロムが使う。いいわね?」 「いいわよ」 キュルケの問い掛けにルイズは硬い表情で頷いた 「使う魔法は自由、ただし、あたしは後攻、ハンデよ」 「いいわ」 「じゃあどうぞ」 「頼むぞマスター・・・・、また顔の前で爆発なんて事はナシだからな」 ロムが静かに呟くと同時にルイズは短くルーンを唱え始めた そして呪文詠唱を完了させる、そして気合いを入れて杖を振った 「えーーーい!!」 呪文が成功すれば火の玉がでるはず・・・・なのだが杖からは何もでない しかし一瞬遅れてロムの後ろの壁が爆発した 爆風に少し巻き込まれる 「マスター!」 ロムの叫びが響いた、しかしローブが切れた様子がなかった 「あはははは!流石ゼロのルイズ!ロープを切らずに壁を爆発させるなんて器用ね!!」 キュルケが笑うとルイズがとても悔しそうな表情を見せた 「次は私の番ね、それ!」 既に詠唱を終えたらしく付けから突然巨大な火の玉『ファイヤーボール』が出てくる それは高速でロープに向かって行き、切り裂いた ロムは地面に落ちるが見事着地、その瞬間上からパチパチパチと小さく拍手なようなものが聞こえた (まさか彼女これを見たいが為にこんな条件を・・・・) 上を見上げたらその彼女は無表情でロムを見ていた 一方フーケは中庭の植え込みから一部始終を見ていた ルイズの魔法で壁にヒビが入ったことにも気付いていた 一体あの爆発する呪文は何なのだろうと疑問に思ったが取り敢えず今は目の前のチャンスを逃さない為に詠唱を始めた そして長い詠唱を終えて地面に向けて杖を振り薄く笑う 音を立て地面が盛り上がった 「残念ねヴァリエール!」 勝ち誇ったキュルケは大声で笑った。 ルイズは勝負に負けたのが悔しいのか膝をついてしょぼんと肩を落としている 「マスター・・・・」 ロムはそんなルイズの姿を見て複雑な気分になった 「さてダーリン、今すぐに縄を解いてあげるわ」 そう言って嬉しそうにロムに近づくキュルケ、その時であった なんとルイズの後ろから突然巨大なゴーレムが現れた! 「なっ・・・・・・・・」 「な、何あれ、きゃあああああ!」 キュルケが悲鳴をあげる、ルイズは恐怖まだ膝を地に付けており立てないでいた 「マスターー!!」 ロムは力技でロープを内側からちぎり、ルイズを飛び込みながらゴーレムに踏み潰される間一髪の所で救出する そして地面に引きずられる 「マスター大丈夫か!」 「ロ、ロム・・・・」 ルイズは恐怖で震えていた「タバサ!剣をくれ!ルイズを頼む!」 既にキュルケを救出していたタバサはコクッと頷き、ルイズを風竜に掴ませ、キュルケが買ってきた剣をロムに渡す ゴーレムは既に宝物庫の壁を破壊しており、その穴から細長い箱を抱えた黒いローブの人間が出てきた そしてローブの奥の顔の笑みが深くなった 「さあ行くわよ」 「逃がすか!」 ロムは思いっきり剣を黒ローブを纏った人間に投げるがゴーレムに防がれ剣は折れてしまった そしてゴーレムは突然砂ぼこりを起こして崩れ去り、収まったころには既に黒いローブは去っていた 残ったのは茫然とする四人と風竜 そして壁に刻まれていたメッセージ 『巨人の剣』確かに徴収いたしました 土くれのフーケ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/300.html
「・・・・」 失神しているルイズの前で、おとーさんは困っているように見えます。 すると、ドアが開いてある人物が顔をだしました。その人物はおとーさんにここに至った経緯を説明してくれました。 その人物は(こんなドアあったっけ?)と、家に新しく出来たドアに近づいてじろじろ見ていました。 すると、突然ドアが開いて、中を覗こうとした女の子と鉢合せをしてしまいました。その距離実に20センチ。女の子は固まっていましたが、その人物は吃驚することもなく気さくに話しかけました。 「やぁ、僕りすのターくん。カリフラワーじゃぁないんだよ」 その台詞をちゃんと聞いたかどうかは分かりませんが、女の子はターくんが話し終わると同時に失神して倒れてしまいました。 「旦那。と、言うわけなんですよ・・・」 おとーさんはその話を聞いた後、おもむろにベッドの方を見ました。 ター君はその様子をみてポンと手を叩き「なるほど」と呟きました。 二人はベッドへルイズを運びました。おとーさんはター君へこの部屋に入らないようにと告げるとそのまま自分の家にター君を帰しました。 「・・カリ・・フラワー・・・んんんん」 ルイズは少々うなされている様でした。 おとーさんはそんなルイズを見てしばらく待ってからルイズを起こしました。 ルイズは飛び起きると目の前にいるおとーさんを捕まえて 「あああ、あのドアの向こうは、どど、どうなってるのよ!!!」 おとーさんは不思議そうにルイズを見ています。ルイズはその様子を見て(あれは夢だったのかしら?)と考え 「な、なんでもないわよ」 と言い、おとーさんに着替えを手伝うようにいいました。おとーさんは服を取りに行く為にルイズに背を向けると「くすくす」 と笑っていました。 着替えが終わり支度を済ませたところで 「朝食にいくわよ。付いて来なさい」 ルイズはおとーさんにそういいました。 (なんかこの使い魔私をバカにしてるみたいなのよね。食事で上下関係をハッキリ認識させてやるんだから) ルイズはそんな事を考えながら部屋を出ました。 するとキュルケとばったり出会ってしまったのでした。 「あら、ルイズ。おはよう」 「・・・おはよう、キュルケ・・」 ルイズはあからさまに嫌そうな顔をしています 「この白いゴーレムがあなたの使い魔?よく召喚できたわね~」 「うるさいわねぇ。正真正銘、私が召喚したんだからケチつけないでよ!!」 「そんなに怒らなくてもいいじゃない。フフッ・・・これが私の使い魔、フレイム。サラマンダーよ。しかも火竜山脈の・・・。 好事家に見せたらきっとかなりの高値をつけてくれるでしょうね・・・。」 キュルケとルイズがサラマンダーを見ると、おとーさんとフレイムが見つめ合っていました。そのうちフレイムは滝のような 汗を流し始めついには地面に這い蹲りました。 「フレイムどうしたの?・・・まぁいいわ、行くわよ」 サラマンダーの行動に首を傾げるキュルケでしたがそのままどこかへ行ってしまいました。 「あんた、何やったの??」 ルイズがおとーさんに尋ねると、おとーさんは一言こういいました。 「おとーさん・・・にらめっこ強い」 それを聞いたルイズはその場で吹き出して笑い始めました。 おとーさんはそんなルイズをみてなんだか少し嬉しそうでした・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6004.html
前ページ聖剣と、ルイズ その日、世界は変わった。 ルイズはその兵器を使える唯一の人間だった。しかし、誰よりそれの恐ろしさを知っていた。だから使うのを嫌がった。 あれほど魔法に執着していたのに、あの日から私がいくらからかっても、軽くあしらうようになった。その頃の私は、魔法が成功して余裕ができた、その程度しか考えていなかった。だけど、そうじゃなかった。 「魔法が最高だと思ってるなんて、幸せね」 あの、疲れた表情と言葉が、未だに忘れられない。そのときは、私は無邪気に憤慨できた。あの兵器の威力を見る前は。 天空に放たれた光は、跳ね返るかのように地上に降り注ぎ、狙った大地を焦土にしてしまった。私はそれを、あの塔のモニターという遠見の鏡で見てしまった。 私は理解した。メイジがどんなに束になろうと、これには敵わないと。 キュルケの回顧録より ルイズは、エクスキャリバーを使う気はなかった。誰がどんなに請うても、首を縦に振らなかった。たとえアンリエッタが興味本位で撃つよう頼んでも、エレオノールが脅迫しても。アカデミーの人間がどんなに調べても、それを撃つどころか、一部の起動すらできなかった。 それの威力を知っている、そしてそれを造ったのが誰か知っているルイズは、魔法に固執しなくなった。平民でメイドのシエスタやコック長のマルトーなどとも親しくなり、よく話すようになった。同級生たちにそれをからかわれたりしたが、爆破してやるとそれもなくなった。キュルケは、それをいい傾向だと見ていたが。 しかし、そんな平和な日々は続かない。急遽決まったアンリエッタ姫の学院視察、その日の夜。 「ルイズ、力を貸して欲しいの」 突然の姫の訪問に、しかしルイズは驚かない。遥か天空の機械の眼から、彼女はアンリエッタが寮に向かってくるのを見ていた。 望む望まないに関わらず、ルイズは巨大な力を持っているのだ。 それは遺憾ながら、コルベールの滑らせた口からアカデミーのエレオノールを経て、王室に伝わっていた。『ヴァリエール家の三女が強力な兵器を召喚した』と。 「今、アルビオン王家に叛旗を翻している貴族たち、レコン・キスタをどうにかしないと、トリステインが危ないの。彼らは聖地奪還を掲げ、ハルケギニアの統一を目指しているわ」 アルビオンで内戦が起きているのはよく『見え』ていた。日に日に戦線を後退させ、今では浮遊大陸の隅にある城に篭城している。あれは、ニューカッスル城といっただろうか。 「そこで、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになりました。条件は、わたくしがゲルマニアに嫁ぐこと。成り上がりのあの国には、始祖の血という正当性がのどから手が出るほど欲しいものですから」 それを聞いても、ルイズの頭は冷静だった。かつての彼女なら憤慨していただろうが、異世界のあらゆる英知が詰まったその頭では、それが『しかたのないこと』と理解できてしまった。強大な勢力が統一を名目に宣戦布告してくるかもしれない、そして自国の国力ではそれに対抗できない、ならば力のある隣国と軍事同盟を結ぼう、しかし相手は政略結婚を条件にしてきた。それだけだ。幾度となく繰り返された歴史が、また繰り返されるだけの話。 「……アルビオンに、同盟を阻止できる何かがあるのですね?」 「――――っ。ええ、そうよ」 考えてみれば簡単な話だ。同盟ができなければ、トリステインはレコン・キスタに滅ぼされる。逆を言えば、レコン・キスタはトリステイン・ゲルマニアの同盟をなんとしても阻止したい。しかし、妨害できる材料がなければそのまま放置しておけばいいのだ。わざわざそれをルイズに話すということは―――― 「私に、その『何か』を取り戻して欲しいのですね?」 「……ええ。城には既にレコン・キスタの間諜が入り込んでいるらしいの。だから、信頼できるあなたに頼みに来たのよ。危険なのは判っているわ、だけどあなた以外に信じられる人がいないの……」 そして、彼女は、ルイズが一番触れられたくないことに触れてしまった。 「それに、あなたにはエクスキャリバーがあるじゃない。あれはとても強力な兵器と聞い」 「あれを、使えと言うのですか」 アンリエッタの笑顔が凍りつく。恐ろしく低い、今まで一度も聞いたことのない底冷えのする声。アンリエッタは一瞬、それが誰の声か判らなかった。 「そ、そうよ。平民の造った物とはいえ、あれもあなたの使い魔なのだから、あなたを護ることくらいなら……」 「姫様。あれの威力、レコン・キスタで試してみましょうか。二度とトリステインに楯突く国家は現れなくなるでしょう」 ルイズの表情は笑顔。しかし、アンリエッタはその笑顔を生涯忘れられなかった。世界の全てを呪ったような、そんな笑顔だった。 それから数日間、ルイズは学院とアカデミーの人間にエクスキャリバーの運用を叩き込んだ。エレオノールと学院の生徒は反発したが、アンリエッタとオスマンの命令が下達されると大人しく作業するようになった。 そして、後にD-dayと呼ばれるその日、ルイズとアンリエッタと、枢機卿マザリーニをはじめとする将軍や大臣が、トリステイン空軍旗艦メルカトールに乗り、アルビオンに発った。様々な問題や文句が大臣や将軍からあがったが、姫とヴァリエール家の三女の説得は、それを黙らせた。乗員の中にはヴァリエール公爵などルイズの家族がいたが、ルイズの一言でこれも黙らせた。 「お叱りは、結果を見てからでもできます」 そしてその日、歴史上最も短く、最も犠牲者の多い戦争が始まった。 風石を大量に消費し、メルカトールはニューカッスル城上空に現れた。トリステインによる突然の介入にアルビオン王家、レコン・キスタ共々驚いたが、たった一隻の援軍に、片方に絶望を、もう片方に嘲笑を与えた。 しかし、それは一回の手旗信号により変わる。 『レコン・キスタに告ぐ。我はトリステイン公爵ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。即時降伏せよ。従わぬ場合は、光の鉄槌が諸君を襲うだろう』 レコン・キスタ側の空軍司令部、戦艦レキシントンの艦橋では、たちの悪い冗談だと思っていた。が、公爵家名義での通達だ、冗談では済まされない。 すぐに主砲をメルカトールに向け、返答を送る。 『こちらレコン・キスタ空軍司令サー・ジョンストン。その要求には従えない』 それが儀礼的なものとは、双方承知していた。 『了解した。トリステイン王国はレコン・キスタに宣戦布告する』 宣戦布告と同時に、ルイズはエクスキャリバーから持ってきた衛星通信機に声を吹き込む。 「作戦開始。目標、第一ポイント。敵旗艦」 外では将軍や大臣が敵主砲に怯えて騒いでいるが、すぐに大人しくなるだろう。今、艦橋にいるのは国の頂点に近しい者たちと最小限のクルーだけだ。即ち、アンリエッタ、マザリーニ、ヴァリエール公爵、ヴァリエール夫人、エレオノール、そしてルイズ。 「ルイズ、お前は、何をしたかわかっているのか?」 「もちろんです。ほら、お父様も敵艦を見ていないと。歴史の変わる瞬間を見逃しますわ」 「ちびルイズ! お父様に向かって……」 「あねさま。黙って見ていてください」 くるりとエレオノールに背を向け、エクスキャリバーに指示を出す。 「照射」 そして向き直り、 「これが、異世界の平民の力です」 その言葉と同時に、レキシントンは天空からの青い光に包まれた。 騒いでいた将軍大臣達、艦橋の人々、ニューカッスル城の王族貴族、そして、レコン・キスタ。レキシントンに乗っていた者と、光の下にいた者以外の、その場に居合わせた全ての人が、その光を見て唖然としていた。 たった数秒の、光の柱。それが、史上最大の戦艦を、消し去った。 「第二ポイント。敵主力戦艦群。照射」 時が止まったように動かない人々の中で、ただ一人、ルイズが淡々と通信機に命令を言う。 次に大きな戦艦が幾つか消え去った。 「第三ポイント。敵地上拠点。照射」 無慈悲にも、地上の野営地が焦土となる。 「後は指定ポイントを順次照射。民間人と市街には絶対に当てないよう注意すること」 その言葉は、さながら『元の世界』の軍人の様だった。 もう『照射』の声も無く、次々に光の柱が現れては消え、次々に人が、船が消えてゆく。 「どうです、姫様。私の言葉の意味が理解できましたか? 貴女は私に、『これを使え』と命じたのです」 ルイズは、震えていた。しかし、必死でそれを隠して、努めて平静を装い、アンリエッタに告げる。アンリエッタは、蒼白な顔で涙を流しながら、その光景を見ていた。 「これが、『所詮』と侮った異世界の平民の力、魔法の無い世界で造られた兵器。個人を護る為に使えるようなものではありません。大量殺戮と対空防衛の為の、文字通りの戦略兵器なのです。これが……私の、使い魔……エクスキャリバーの……真実……です」 「ああ……ルイズ……こんな、私は、こんなつもりじゃ……」 嗚咽と共に、アンリエッタは崩れ落ち、ルイズにすがりついた。 「ごめんなさい……ごめん……なさい……」 怖くて、泣きたかった。しかし、泣くわけにはいかなかった。ルイズは、強大な力を持ち、そして今、それを行使したのだ。泣いてしまったら、エクスキャリバーの威力を誇示するために人柱になった、消え去ったレコン・キスタの兵士に申し訳が立たない。戦争とはいえ、敵とはいえ、こちらのエゴで殺してしまったのだ。そして、この件に加担した学院の生徒、教師、アカデミーの人間に罪の意識を持たせぬために、ルイズ一人がこの殺戮の責任を負うために、ルイズ名義で宣戦布告をしたのだ。今ここで子供のように泣くわけにはいかなかった。 レコン・キスタの首謀者、オリヴァー・クロムウェル名義で降伏が宣言されたのは、それから十二分後のことだった。 前ページ聖剣と、ルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8332.html
前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その7 光の剣?デルフリンガー 『ゼロのルイズの使い魔が、ギーシュを決闘で負かした』 このあまりに刺激的なニュースに学院はどっと沸いた。 メイジを下す実力を持つ子供が現れた。 いや、ギーシュの慢心によるものだ。 様々な噂が錯綜することとなった夜、ムサシは厨房にいた。 「おっさん!完璧だぜ!これこそおにぎりだ!」 「おう!たんと食ってくれ!能なし貴族の鼻っ柱、よくへし折ってくれたな!」 ムサシの髪を大きな手で撫でる料理長マルトーは、非常に上機嫌だった。 おかげで厨房の雰囲気はすっかり宴会場になっている。 彼の好物『オニギリ』を存分に振舞いもてなし、ムサシのお腹は幸せではちきれそうだ。 「もう、マルトーさんったら……でも本当によかった、ムサシくん……」 「どうしてだい?」 「心配していたの、ムサシくんが負けちゃうんじゃないかって」 通常、ハルケギニアで貴族に平民が逆らうことは自殺行為だと思っていた。 シエスタもそんな常識を持って今まで生きていたのだが、目の前の小さな少年がそれをひっくり返したのだ。 「本当に勝っちゃうなんて。ムサシくん、まるで『サムライ』みたい」 「へへッ、おいらがあんなヘナチョコに負けるわけねえさ!……え?『侍』?」 「あ、私の故郷では、とってもすごい剣の使い手をそう呼ぶらしいの」 聞き返したのは、聞きなれぬ言葉だからでは無い。 ムサシは知っている。 刀を振るう戦士、すなわち自分のことをそうとも呼ぶと。 シエスタがこの地に存在しない戦士の呼称を知っている理由を聞こうとしたその刹那。 マルトーが二人の間に顔を突き出した。 「なんともシャレた異名だなシエスタ!」 「ひゃ、マルトーさん、酔ってるんですか!?まだ夕食の後片付けは残って……」 「よーし!シエスタの故郷に従って、ムサシを『我等が侍』と呼ぼうじゃないか!」 『あっぱれ、みごと、我等が侍!』 「うわぁっ!おいおい勘弁してくれよ!」 厨房がコック一同のどんちゃん騒ぎの場と化して、シエスタは苦笑する。 ムサシもまんざらではなさそうで、やんややんやの大騒ぎだ。 そろそろ食堂の方にも厨房の騒ぎが聞きつけられようか、といったその時。 恐怖の大王のように、それは降臨した。 「誰が恐怖の大王よっ!ムサシ!ムサシはいるの!?」 「ルイズ!?」 厨房の喧騒が、水を打ったように静まる。 ムサシはご主人様のところへ嫌々ながら進み出た。 「なんだよ、ここで飯をもらうことは言っておいたゼ?」 「だからってご主人様よりゆっくり夕食を食べてていいわけ無いでしょ!ほら、帰る!」 「うわっ、引っ張るなって……シエスター、おっさーん。ごちそうさま!」 大騒ぎはさらに騒がしいルイズの登場で一気に終焉を迎えた。 シエスタもマルトーも、ぽかんと立ち尽くしてしまう。 「行っちゃいましたね」 「全く落ち着かない主人みたいだな。同情するぜ『我等が侍』」 どこかからかいのように微笑みながら、ムサシに手を振る。 彼の次の来訪を楽しみにする、厨房の一同であった。 * * その後、オールド・オスマンからのお咎めも無く、ルイズは無い胸をほっと撫で下ろした。 ギーシュも後日、ムサシといがみ合うこともなく話しているのを見かけたし、特に遺恨はなさそうである。 ルイズは使い魔の順応力が優れていることに感心するやら呆れるやらであった。 当のムサシはというと、しばし穏やかな日々を過ごし、満足しているようだ。 朝、ルイズよりも早く起きて剣の稽古。 他の生徒たちの使い魔と駆けまわり足腰の鍛錬。 腹が減れば厨房でおにぎりを貰い疲れたら青空の下でごろりと寝る。 ヤクイニックで過ごした日々と、そう変わり映えはしていない。 ただひとつ、不満な点があるが。 「タイクツだ……どっかに強いヤツでもいねえかな~」 ギーシュとの決闘騒ぎ以来、彼に決闘と呼べる出来事は舞い込むことがなかった。 三度の飯より決闘が好きのムサシにとっては、過ぎたる平穏は不謹慎ではあるが遠慮したいところなのだ。 帝国の刺客、ビンチョタイトの異常による怪生物、そしてクレスト・ガーディアン。 以前の場合は未知の強敵に事欠かない、飽くなき戦いが待ち受ける世界。 しかし今は彼を取り巻く状況が、最初から違っている。 彼はルイズの下僕であり、世界を救う英雄では無かったのだ。 下僕の立場で戦うことなどそうそうなく、ムサシは磨いた剣を持て余す日々を送らざるを得ないのだった。 * * そして数日後、虚無の曜日がやって来る。 いつもの時間に起こしたねぼけ眼のルイズの話によると授業が休みらしい。 着替えに入ったご主人様を置いて、寝袋をしまったムサシは寮の外へと繰り出した。 ちらほらと、他の生徒や使い魔の姿も見える。 ムサシは他人の邪魔にならないよう、人気の少ないところで黙々と鍛錬を始めた。 しばしそうしていた所、最近仲良くしている使い魔がのそのそ、と寄ってくるのを感じる。 「きゅいっ」 「やあ、元気そうだな!」 誰のかは定かでは無いが、恐らく使い魔であろう竜が頭を摺り寄せてきた。 一昨日、昼食の特製『マルトーおにぎり』(例によって残り物の高級鶏肉入り)を半分こした仲だ。 今日はまだ朝食も貰っていないが、それでもいいらしくムサシの鍛錬を眺めている。 ちゃっかりしたことに、こうして近くにいればおこぼれを貰えるという算段らしい。 だがムサシのほうも、別にそれは構わないようだ。 ヤクイニックでもここまで身体の大きい生物は目にしたことがなく、ムサシは興味があった。 この竜だけでなく他の愛らしい使い魔を見ると、ジャンや村の人々がレノを可愛がった事も多少は理解できると言うものだ。 「ムサシくん、おはよう」 「おう、おはよう!どうしたんだいシエスタ」 続く来訪者はなにやら包みを抱えたシエスタだ。 決闘をした夜以降、何かと気を使ってくれている。 腹が空いていないか、着ている物は綻びていないかなどだ。 故郷の弟を思う気持ちや感謝の念がそうさせているようだったが、その度ルイズは面白くないらしい。 シエスタも気を遣ってか、ムサシが一人で居るときに話しかけてくれるようになった。 貴族相手の口調をしなくてもいいせいか、シエスタ本人にもそれは安らぎになっているようである。 この地に珍しい黒髪の二人は、仲睦まじく会話をしていた。 「マルトーさんが持たせてくれたの、朝ごはんに食べてね」 「わざわざ届けてくれたのか?何から何までありがとな」 「ううん、気にしないでいいの。それに私ムサシくんと話していると、なんだかホッとするっていうか……」 「きゅいっ、きゅい!」 「きゃッ!?」 シエスタの包みの匂いに我慢ができなくなったか、青い竜が大きな頭を摺り寄せてきた。 少し驚いたシエスタだが、よしよしと頭を撫でてなだめてやると竜は嬉しそうに鳴き返す。 「わりい、こいつもマルトーさんの飯が好きみたいなんだ」 「うふふ、食いしん坊なのね。ムサシくんと仲良くね」 「ありがとうシエスタ、じゃあな!仕事がんばってくれ」 「ムサシくんもね!」 学生が休みとしても、使用人の彼女にとって休日では無い。 仕事にもどったシエスタにムサシは手を振り、今日も美味しそうな食事を竜と仲良くいただいた。 「うん、初めに食ったパンよりもずっとうめえ。ジャムの店を思いだすな」 「きゅいぃ~っ」 魚のオイル漬けを野菜と一緒に挟んだサンドイッチは、パン嫌いなムサシをも唸らせた。 最初こそ苦手としていたパンだが、ヤクイニックでの常食のひとつとしての習慣が徐々に味覚を変えたらしい。 今ではおにぎりほどではないにせよ、パンも悪くない。 隣で美味しそうに頬張る竜を見ていると、よりそう思える。 「ふうー、食った食った!さて、今日は遠出しようかな…?」 「きゅいっ?」 実はムサシ、一昨日、昨日と学院の塀を乗り越え脱走している。 この塀際で眠っていた竜の身体を足場にし、ゲイシャベルトの力を発揮したのだ。 自分なりに元の世界への回帰を図るという意味もあったのだが、何よりじっとしていられなかった。 彼にこの学院は、少々狭いのかもしれない。 それに、彼は昨日見つけたのだ。 (また"あんなもん"が見つからないとも限らないしな) 深い森の中に、手がかりを。 「悪いけど、また今回も頼むゼ」 「きゅいきゅいっ」 「何を頼むのよ」 ぎょっとしたムサシが振り向くと、身繕いも綺麗に整えたルイズが立っていた。 ムサシが腕の時計を見ると、もう学生達の朝食の時間は終わっている。 黙って外出しようとしたことが後ろめたいこともあり、後ずさりして身構えた。 対するルイズは疑問を抱きながらも、珍しくムサシを見て微笑を浮かべている。 「さ、準備して」 「え?」 「剣を買いに行くわよ」 「変なところ触らないでよね」 「そんなこと言ったって、他につかまる所もねえぜ」 「誰の身体につかまるとこが無いって!?」 頭頂に肘を決めながらルイズが言う。 ムサシの身体に合う馬など流石に無く、二人で一頭の馬を使わざるを得なかった。 やいのやいの言いながらの珍道中は2,3時間続き、ようやく目的地の街にたどり着くことができた。 「随分人がいっぱい居るんだなあ」 「トリステインで一番大きな都だもの、当たり前よ」 ムサシが知る城下というのは、ヤクイニック城下村だけだった。 目の前に広がる光景は、人々が狭い道を所狭しと行き来しているもの。 穏やかな農村であった城下村とは、似ても似つかない。 これも文化の違いか、とムサシはどこか新鮮さを楽しみながらルイズの後に続いた。 「そんなにきょろきょろしてると、田舎者扱いされるじゃない。ほらこっちよ」 「ああ。にしてもなんで、剣を買ってくれるなんて言い出したんだ?」 ムサシは当然の疑問をぶつけた。 使い魔への要求はあっても、ルイズからの施しなど食事がいいところだとばかり思っていた。 ルイズは硬直してギギギ、と音を立てそうな仕草でこっちを向いた。 「そ、それはあれよ…この間あんた言ってたじゃない」 「?」 「ほら!"ニトウリュウ"って……あんた、剣二本持ってたほうが強いんでしょ?」 ルイズがごにょごにょとムサシの方を見ないでつぶやく。 本人としては主が使い魔にご褒美をやっているつもり、なのだ。 だが対象がムサシという異性であるせいなのか─ (ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!) (うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!) 「つ、強いほうが役に立つじゃない……それだけだからね!!」 「なんだよ?変なルイズだな」 「うるさい!」 それとも、自分にも解らないうちに他の意図ができたのか。 ルイズはやけに気恥ずかしく感じてしまっていた。 * * うらぶれた路地の武器屋は、サビた匂いがぷんと鼻を刺激する。 ルイズは顔を軽くしかめたものの、ムサシにとっては慣れた臭いだった。 客に気づいた店主が佇まいをのっそりと直し、二人を値踏みするような目で見つめた。 「いらっしゃってくだすってなんですがねえ、うちは貴族様に目をつけられるようなことなんかしてませんぜ。 至極真っ当な商売をしてまさあ」 「客よ」 ルイズが腕を組んでふんぞり返るのを見て、ムサシも倣って腕を組む。 店主はその言葉に驚いて目を見開いた。 「こりゃおったまげた。貴族が剣をお求めですかい?」 「だって、使うのは私じゃないもの」 「へぇ、ではどちらさんで」 「おいらだぜ!」 カウンターから乗り出した店主が、ムサシの姿を認める。 とたんに豪快に笑い出す。 突然の態度の豹変に、ルイズとムサシはむっとした。 慌てて畏まった店主が身を縮ませ弁明する。 「し、失礼貴族様。ですがねえ、こんなチビ助……ああいやお子様に振るえる剣が、 この店にありますかねえ」 「なんとかしてよ、ここ武器屋でしょ?」 「ナメてもらっちゃ困るぜ、おっさん!」 ムサシが不服そうに腰の名刀を鞘ごと抜き出し、掲げる。 鯉口を切った瞬間閃く真・雷光丸の黄金の剣光を見るやいなや、途端に店主の目が光った。 「……おぼっちゃん!その剣、言い値で買わせていただきやしょう!!」 「売らねえよ!こいつくらい良いモン、置いてないかい?」 目がらんらんと輝く店主がずずいと迫ってきて、ルイズとムサシは後ずさった。 途端にしょぼくれて老けこんだ店主がしぶしぶ店の奥に引込み、いくつか剣を用意してきた。 最初に差し出したのは、長さはここの世界で言うと一メイルほどの細剣。 細やかな装飾のレイピアだった。 「えー、確かに最近従者に剣を持たせる貴族もおりましてね」 「やる気出してくれない?客よ私ら」 「こいつぁ失礼。それというのも、トリステインで話題の盗賊というのが居るかららしいんですわ」 「盗賊?」 店主の話では、なんでもその盗賊は『土くれ』のフーケと言う通り名らしい。 貴族のお宝を片っ端から盗みまくる賊で、皆が皆恐れを抱いている。 故に、自衛のために従者に剣を持たせるのが流行しているそうだ。 ムサシは"盗賊"というフレーズに目を輝かせるがルイズは気づいていない。 剣を眺めながらふうん、とその話に相槌を打ちつつ首を捻っている。 「若奥様、ご不満でも?」 「剣のことはよく解らないけれども……細くない?これ」 「ああ、おいらにゃ細すぎるぜ」 「お言葉ですがねえ、この子の身体にゃ正直これくらいしか合いやせんぜ?」 店主はそう言うものの、ムサシの力を垣間見ていたルイズは難色を示す。 すると、剣を振るう本人がすっ、と進み出た。 「まあ見てなっておっさん」 「うん?」 それは 剣と言うにはあまりにも大きすぎた 大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた それは 正に鉄塊だった ─とでも評されそうな片刃の剣が、店の隅に置かれていた。 よく見れば奇妙な二つの穴が開いている、どこかで金髪のトンガリ頭が振るっていそうなその巨大な剣。 ムサシは"片手"で持ち上げた。 「は!?」 「こいつはちょっと長えけど、このくらいの段平でいい剣はねえか?」 自分の使い魔がゴーレムを細身の刀で両断するほどのパワフルな子供なことは知っていたルイズ。 だが、改めてその怪力を見て驚くやら呆れるやら。 初見の店主はと言うと、くわえていたパイプをポロッと落としてしまう。 ムサシがその鉄塊をぶんっ、と一振りして元に戻したのを見て、店主がバタバタと店の奥へと引っ込んだ。 「あんた…持てるのはいいけど、本当にあんな剣使えるの?」 「おいらはもともと、この鞘に入るくらいの剣を使ってたからな」 ムサシが背中につけた朱塗りの鞘を見せる。 本当にそれに合う剣など存在するのだろうか、と言わんばかりの大きさであった。 「無茶苦茶ねあんた……」 「お待たせしやした!!こちら、こちらはどうでございましょう!一番の業物ですぜ」 見事に飾り付けられた、装飾の無いところを探すほうが難しそうな剣が出てきた。 長さは先程の剣の倍ほどもあり、かなりの幅広の大剣である。 店主が言うには、魔法も込められており鉄をも切り裂く逸品だとか。 「ムサシ、これすごいじゃない。綺麗よ」 「えー……ルイズ、おいらこんなゴテゴテした剣は好みじゃないぜ」 「何言ってるの!その刀?だっけ、それだって金ピカじゃないのよ。もう一本も当然こういうのでしょ」 ともかく手にとってみなさい、と店主に鞘ごと剣を渡すように言いつける。 しぶしぶその剣を取ったムサシ。 ルイズは店主に値段を聞いていたが、不意に大声を上げた。 「エキュー金貨で2000!?庭付きの屋敷が買える値段じゃないの!」 「そう言われましても言わずとしれたシュペー卿の作品でさぁ、このくらいが妥当ですぜ。 なにより剣は命を守るモンでしょう、値が張るのも仕方のないこってす」 「本当なのかしらねえ……」 ルイズはやはり買い物慣れしていないようで、ぼったくりに遭っているのでは?とムサシは心配になってきた。 鑑定屋のボリーじいさんでもここにいればその目利きが大いに役立っただろうに、という思いに駆られる。 すると、はたと気づいたように額の眼鏡を掛けて、まじまじとその手の剣を眺めた。 「?あんた、目が悪かったの?」 「いや、こいつは見たモノを鑑定できる伝説のゴーグルなんだぜ……えーっと、どれどれ。 『ゲルマニアのシュペー卿が鍛えた剣。だが実戦で使うには値しないおかざりの剣で、 鋼鉄を斬るどころか岩にすら負けてしまう 200エキュー』 ……なんだおっさん、こりゃとんだなまくらだぜ!?値段も一桁違うじゃねえか!」 「な、ななな」 「はぁ!?ちょっと、どういう事よ!」 「すすす、すいませんでしたぁーっ!ちょ、ちょっとした手違いみたいで……ええと……」 「ぶわーっはっはは!!とんだチビどもを相手にしちまったな!!」 店主が詰め寄る二人にあたふたと言い訳を連々並べていると、途端に笑い声が響いた。 店に自分たち以外の客がいないはずなのに、とムサシとルイズは驚いて辺りを見回す。 「デル公、今取り込み中だ。お客様にそんな口を利くんじゃねえやい」 「そんな冷やかしのチビ助二人がお客様たぁ、お笑いだ」 「ちょっと!さっきから誰よ、失礼な!」 「こっから声が聞こえたぜ?」 背の低いムサシが、店の一角の棚に手をかけて顔を出す。 するとそこには剣が置かれている。 錆が浮き古びた雰囲気の漂う剣の鞘が、カタカタと鳴りそこから音が漏れているではないか。 「しゃべる剣?驚いたな、どこにでもあるもんだ」 「これって……インテリジェンスソードじゃない?」 「ええまあ……意思を持つ魔剣なんて言われてますが、とんだ厄介モノでさぁ! 客に悪態ついて喧嘩売るわ、脅かして追い返すわでこいつのせいで商売あがったりで…… デル公、今度という今度はてめえをドロドロに溶かしちまうぞ!」 「へっ!やってみやがれ、こんなしょぼくれた店にゃあもう飽き飽きしてたんだ!願ってもねえ!」 店主がずかずかと歩み寄り、お喋りな剣を取り上げようとする。 そこにムサシが口を挟んだ。 「待ってくれ、溶かす前に見せてほしいぜ」 「ムサシ、あんたこんな剣がいいの?」 あからさまな難色をルイズは示す。 どう贔屓目に見積もっても、こんな錆まみれの剣は趣味に合わなかった。 こんな見窄らしいものしか買い与えられないのか、とキュルケあたりが指差し笑うに違いない。 しかし、当のムサシは興味深げだ。 「おいらが前使ってた剣も、しゃべったからなあ」 「えっ……あんた、どんな剣使ってたのよ…」 ムサシが以前愛用していた剣、光の剣レイガンド。 その剣もまた、冒険の最中ムサシに語りかけたことがあった。 と、言っても正確に言えばレイガンドでは無く、そこに封じられた魔人が語りかけたというのが正しい。 ともあれムサシにとってこんな異郷の地でもまた、しゃべる剣に出会えたという奇妙な縁に心踊っていた。 兵法者にとって、物珍しい武器というのは否が応でも手にしたくなるものである。 ムサシはデル公と呼ばれた剣を左手に握り、鞘から抜いた。 柄から切っ先までをじっくりと眺めて、正眼の構えを取ってみる。 「へ、ナリはチビだが案外サマに……お?」 「どうかしたのか?」 「こりゃおでれーた、ガキと思って見損なってた。お前ェさん『使い手』だったのか?」 「なんだい、その『使い手』ってのは」 ムサシは再び『エキシャゴーグル』をかけ直しながら尋ねた。 伝説の武具の能力でこの剣を鑑定する。 銘は『デルフリンガー』というらしい。 なるほどそれでデル公か、とムサシは納得する。 と、握る左手が熱を持っている感覚がして目を向けた。 見ると、朱の篭手の下から光が溢れている。 外してみると、使い魔の契約のルーンが輝いていた。 ムサシは、ルイズと二人で目を見合わせる。 「えーっと『使い手』ってのはアレだ、ほら。あーっと…えー、すまねえ!はっきりとは覚えてねえ」 「なんだよそれ?」 「はっきりしない剣ねえ……ねえ、サビてるし胡散臭いわよこいつ。相手にしないでおきましょ」 「人を見た目で判断するたぁ、まだまだ青いなピンク女。ピンクの割にな」 「剣じゃないあんた」 危うく刀剣にツッコミを入れそうになったルイズが手を引っ込める。 ムサシは黙々とデルフリンガーを鑑定していたが……やがて、驚いたようにゴーグルを外した。 「ルイズ、おいらこいつに決めたぜ」 「えー!?嫌よ私、こんなボロっちい剣」 「おいおい使うのはこっちの小僧だろうが!おい親父!俺の値を言ってみろ!特価だろ!?」 抜身のデルフリンガーがムサシの手でバタバタと喚く。 先程までのからの態度の豹変ぶりにルイズはぎょっとした。 「鞘込みで100って所で結構でさ。この店で一番のがらくたで良けりゃそれくらいでお譲りしましょ」 「おいちょっと安すぎやしねえか!?しかもがらくたたぁ言ってくれるじゃねえか、表出ろ親父ぃ!!」 「お前、買われたいのかそうじゃねえのかハッキリしろよ……」 「言っとくけど100以上なら買わないわよ……」 半ば呆れてきた二人だが、ルイズの財布を開いて覗き込んでみる。 100しかなかった。 な、とムサシが片目を瞑る。 ルイズは口を尖らせながらも、しぶしぶ勘定を済ませるのであった。 「うるさくなったら、この鞘に入れりゃ黙りますぜ。できるかい坊主」 「おう!朝飯前だぜ」 ムサシの背には新たに三本目の鞘が括られる。 彼の身の丈ほどの大剣と呼べるサイズだというのに、器用にムサシは背に剣を収めた。 店主はムサシの頭を大きな手で撫でて笑いかける。 「そいつは愛想が悪ぃなまくらだけど、面倒みてやってくんな」 「ありがとな、おっさん!いい買いモンしたぜ」 「あばよ!俺っちのいない余生は辛気臭ぇだろうが、楽しみやがれ」 なんだかんだで、すっかり人が良くなった店主に手を振って二人と一振りは店を後にした。 店を出て、大通りを逆行して外へと向かう。 しかし、ルイズの方はと言うと未だ納得していないのか憮然とした様子であった。 「ホントにそんなので良かったのかしら……こんなヘンテコな剣じゃ笑われるわよ?」 「おい娘っ子、言うに事欠いてヘンテコはねえだろぉが」 「いや、ルイズ。こいつはとんでもない掘り出しモンだったぜ?」 「うそぉ?だってこんな骨董品以下の剣……」 ルイズは訝しげに背中で揺れる剣を眺めた。 どんな物好きだってゴミとして捨てそうなその外見を見て、改めてため息が洩れる。 「娘ッ子ぉ、そりゃねーぜ。そりゃ俺、いろいろ忘れてるけどもさ」 「いいよ、帰ったら説明するからさ。これからよろしくな、デルフリンガー」 「おう、俺っちのことはデルフでいいぜ。相棒、名前を教えてくれや」 「おいらは、ムサシだ」 人ごみを抜け、都の外に繋いである馬に乗り込む。 日はまだ正午、といったところか。 「ちょっと!何で私の前にあんたが乗るのよ」 「後ろにしがみつかれるより、こっちのがルイズのが楽だと思ってさ」 「い、いいからあんたは後ろ!しがみつかれて嫌がるほど心狭くないわ!」 「ケケケ、言うねえ娘ッ子。本心は違うんじゃねぇか」 帰路は行きより、少し騒がしくなりそうであった。 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4731.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 5.ルイズとクックベリーパイ 「さて、ここへ呼んだ理由は分かるかの?ミス・ヴァリエール」 「…私の代わりに使い魔が戦ったとはいえ決闘に応じてしまった事と、それで壊した中庭の事でしょうか」 本塔の最上階に位置する学院長室、ルイズとゼロの目の前には杖を手にしたオスマンと その横にコルベールが真剣な眼差しで立っていた。 決闘後、直ちに使い魔ともども学院長室に呼び出されたルイズは一体どんな処分が下されるのか不安になっていた。 修理費用の請求に関しては次の仕送りまで多少、金額的余裕があるので大丈夫だ。 しかし「あのゼロのルイズがとうとう決闘問題を起こした」となれば実家の方にも話が伝わって あとはもう実家の両親とアカデミー勤めの長姉による不祥事説教祭りが始まるに違いない。 「あー…決闘に関しては事情を聞けばグラモンの馬鹿息子が原因のようじゃからお主は不問じゃ。 中庭も教師達が完全に修復したわい、かかる費用も請求せん。」 と、不安で青い顔をしているルイズに言い切ったオスマンが手にした杖をゼロに向けた。 「この使い魔殿について知っておる事を正直に話せば、の話じゃが」 「俺だと?」 「私達も騒ぎの一部始終を見…他の者から聞いたのだがゼロ…ガンダム殿で良かったかな? 君が放ったあの雷、あれはトライアングル…いや、純粋に威力だけで見るならスクウェアクラスに匹敵する」 「トライアングル…スクウェア…?」 「何?ミス・ヴァリエールからは何も聞いてないのか?」 「もっ、申し訳ありませんミスタ・コルベール!あのね、“トライアングル”“スクウェア”っていうのは 一回の詠唱でメイジが組み合わせられる属性の数を表すの、これはそのままメイジとしての技量を表すわ。 一つでドット、二つでライン、三つでトライアングル、四つでスクウェア、スクウェアは最高位のランクよ。」 「模範的な回答で何より。その最高位のレベルと同じ威力の雷が出せる使い魔で、しかもこの世界には 存在しない種族ときている。我々としてもミス・ヴァリエールを信じたい所だが……」 「俺の存在がこの世界の脅威になるのではないか、この娘が俺を上手く扱えるか、という事か」 「すまないがそう受け取ってもらって構わない」 「ミスタ・コルベール!私が召喚した使い魔なんですから私がしっかりとこの使い魔の手綱をとってみせます!」 コルベールの言葉に自信満々と答えたルイズだが、あの雷がルイズに不安を与えていた。 どんな使い魔にも負けない威力のあの雷を持つ使い魔を…私は扱えるのだろうか? 「…この娘の手足となって色々とこき使われる気はないが、別にこの世界にとって 脅威になるような事はしない。俺の剣は悪に轟く雷鳴だ」 そう言ってゼロは、昨夜にルイズと話したのと同じ事をオスマンとコルベールに話した。 「成る程、スダ・ドアカというこことは別の世界で騎士をしていたと…」 「あぁ」 「にわかには信じがたいが異世界という存在とユニオン族…君のような姿をした種族がいるとはまた興味深いね。 その世界の騎士はみんな君のような事が出来るのかい?」 「いや、そういうのは俺の剣の流派だけだ。騎士は剣で戦ったり機兵という巨大な機械の操手を勤めるのが一般的だな」 「剣術!雷を繰り出す剣術とは実に興味深い!しかも今の“キヘイ”とは何かね!? ゴーレムの類?うぅむこれは興味深い、後で私の研究室に来てみないかね!悪いようにはしない!」 「なっ!?」 「ミスタ・コルベール、そこまでにしときなさい」 「あ、えぇ申し訳ありませんオールド・オスマン」 ゼロに迫るコルベールをオスマンが制し、その様子を見てルイズは唖然としていた。 「ミスタ・コルベールって前々から変わってるって言われてたけど…これは…」 「ともかく、話を聞いた限りではこの世界の脅威となり得る存在ではない事は分かった。 今までの非礼、どうか許してはくれまいか」 「いいさ、しかし事情は分かったからといって俺も死ぬまでこの世界にいるつもりはない。 元の世界に返れる手段ぐらいあるだろう?」 「それがじゃのぅ…本来はこの地におる幻獣を召喚する魔法ゆえに送り返すという方法は 今まで取られた事もなく、そういった手段も存在しないんじゃ」 「存在しないだと?それじゃあ俺は一生をこの世界で終えろというのか!?」 「我々の方でもその手段は極力探してはみるが…どうか、それまではどうか ミス・ヴァリエールの使い魔を勤めてはくれないか、ゼロガンダム殿」 「…それならば止むを得まい」 「そう言ってくれると、助かるのう」 オスマンとの話が終わり学院長室から退室しようとするゼロに、オスマンが何か思い出した様子で ゼロに一言問いかけた。 「時にゼロ殿、「ムーア界」という名前に聞き覚えは?」 「…すまないが無い」 ムーア界という言葉は何となく聞いた覚えはあるが、明確には覚えておらずこう返すしかなった。 「近い内にゼロ殿だけご足労願えるかの?そのゼロ殿が来た世界の事で話がしたいんじゃ。 ヴァリエールのお嬢ちゃんには悪いが二人きりで、の」 「情報になりそうな事ならいつでもいい、どうせここの生徒でもないし時間はある」 そうして部屋を退室したゼロとルイズ。 二人の間のちょっと微妙な空気の中、ルイズがゼロに話しかけた。 「ねぇ、ガンダム」 「何だ?」 「…やっぱり元の場所に帰りたい?使い魔って、そんなに嫌なの?」 いつも高飛車な調子ではなく相手の様子を伺うように話しかけるルイズ。 「見知らぬ世界に来ていきなり下着を洗えと言われたらそりゃあ嫌だろう」 「まだ昨日の事根に持ってるの?まったく…」 「だが、元の世界に帰りたいといえば…どうだろうな」 「え?」 「…あの世界での俺の戦いは終わった。それからは、後に続く者達のやる事さ」 ゼロは考えていた。雷龍剣と自分の宿命が終わった今、あの世界に自分は不要だと。 そんなゼロをよそに何とも要領を得ないルイズだった。 ごぎゅうぅ その時、どこからか気の抜けた音が聞こえてきた。 「何?今の音…」 「あぁ、そういえば昼食を食べ損ねていたな…」 この音はゼロの腹の音だった、クスリとしながらルイズが話す。 「じゃあガンダムは私の授業に付き合わなくていいわ、厨房に行って来て何かもらってきなさい」 「いいのか?」 「派手に勝った使い魔が腹の音をさせてたら主人の私が恥ずかしいわ」 という事で、空腹のゼロはルイズと別れ厨房の方へと向かった。 「あ、ゴーレムさん」 「おぉっ、こいつが“ヴァリエールの小さなゴーレム”か!確かに変わった形してんなぁ! こいつがあの貴族の坊っちゃんをひーこら言わせてたとはねぇ」 厨房に入ったゼロを出迎えたのはシエスタと、コック服を身に纏った太っちょながら精悍な顔つきの顔の男だった。 「こちらはコック長のマルトーさん、厨房で一番偉い人ですよ」 「おぅ!俺がこの魔法学院の味の番人、マルトーだ!」 ぐっと付き立てた親指を自分にびしっと向けながらノリ良く答える。 「俺はゼロガンダムだ、ゼロでいい。そういえばメイドの君にも名乗ってなかったな」 「そういえば私も名乗ってませんでしたね、私はシエスタと申します」 シエスタがゼロに向かって丁寧にお辞儀をする。 「本当に喋ってらぁ、お前さんゴーレムにしちゃあ変わってるねぇ」 その先入観を打ち破るように再びゼロの腹の音が鳴った。 「今の音…なんでしょうか?」 「…実はな」 「はぁっはっはっは!おめぇさんゴーレムじゃなかったのか!」 「ゼロさん…そういう種族だったんですか?」 「ここじゃそうらしいな、まったくこの世界のゴーレムというのを一度お目にかかりたいもんだ」 コック達の賄いシチューを食べながらマルトーやシエスタと談笑するゼロ。 物珍しさに他のメイド達やコックも集まっていた。 「あの決闘見てたぜ!すげぇ雷だったな!」 「アンタのおかげでシエスタが無事だったようなもんさね!」 どうやらあの決闘を見ていた者がこの中にも何人かいたようでゼロに話しかけてきた者もいた。 「おい昼間の忙しいって時におめーら何やってんだ!」 「す、すいやせんマルトーさん!」 厨房が笑いに包まれる中、空になった皿を見たシエスタがゼロにお代わりを持ちかける。 朝食を抜かれ決闘で技まで使ってしまったゼロにとって二皿目のシチューもあっという間に 腹の足しになってしまった。 「すまなかったな、皆の大切な賄いを2杯も馳走になって。 後で俺にも何か手伝わせてくれ。施しを受けた以上恩は返さねばならん」 「いいって事よ、貴族の野郎どもあれこれ文句つけて残すからな。 それにあんた貴族の使い魔だけど貴族よかよっぽど良い奴だ! これから飯はしみったれたパンとスープじゃなくて賄いのシチューにするよ! まったくあの量のパンとスープってご主人様って奴は使い魔を何だと思ってるのかねぇ」 マルトーに背中を叩かれているゼロにシエスタが話しかけた 「あの…実はあの後、あの貴族様がちゃんと謝りに来て下さって…。それで…私からもゼロさんに何かお礼を…」 「いや、礼なら俺よりルイズにしてくれ」 「え?でも決闘で勝ったのは…」 「そうだぜ、何も主人の肩持つこたぁねぇよ」 厨房でのやりとりや決闘騒ぎでで分かった事だが、ここではメイドやコックといった 魔法を使わない者は貴族に対してあまりいい印象を持っていないようだとゼロは感じた。 ギーシュのあの態度やルイズの無駄に高いプライドを思い返せば即座に納得する話ではあるのだが。 とはいえゼロも食堂でのルイズのやり取りにちょっと感心しており、。 「だが、俺はあくまでルイズが決闘を受けると言ったから受けて勝ったまでだ。 シエスタに対する横暴だって一番最初に止めたのはルイズであって俺は途中から割り入っただけだしな」 「そういえば…そう…でしたね」 「そんなもんかねぇ全く、貴族様ってのは分からんよ」 「あのギーシュという小僧よりは多少貴族らしいさ。ま、それを差し引いても色々と子供だが」 「お礼…どうしましょう…私に出来る事なんて炊事洗濯家事お菓子ぐらいしか……」 「ふむ」 その時、ゼロの脳裏に一つの単語が浮かび上がった。 夕食も終わりいわゆる自由時間である寮内、机に向かっているルイズの横では ゼロが自身の剣を抜いて眺めていた。 「勉強か?」 「魔法が出来ても出来なくても、勉強ってのは大事よ」 本を読んでいたルイズが顔をゼロの方に向ける。 「うわぁ、その剣ボロボロじゃない」 ゼロが手にしていた鉄剣は刃の部分が所々こぼれ落ちており、刀身も高熱に晒されたかのように あちこち変色していた。 「…あの技を使うのは久しぶりだったからな、つい力の加減を間違えた」 「それ、魔法なの?」 「魔法じゃない、俺の一族…“雷の一族”だけが使える雷龍剣の技だ。」 「でも魔法みたいじゃないのよ」 本を閉じたルイズが顔をゼロの方に向けたまま顔を机に伏せる。 昼間のあの技は確かに凄かったものの、魔法の使えない自分より遥かに凄いとなんだか自分が情けない。 そんなルイズの気持ちがちょっとふて腐れた声になっていた。 「使い魔が魔法を使えて……主人は魔法を使えない……おかしな話ね」 その時、部屋のドアを誰かがノックした。 「? 誰よこんな時間に」 ルイズがドアを開けるとそこには籠と下着を持ったシエスタが立っていた。 「あの…ゼロさんに頼まれていた洗濯物を…」 その瞬間、いつものルイズの顔に戻り剣を鞘に戻していたゼロをキッと睨む。 「ガ~ン~ダ~ムゥ~!!自分の仕事をメイドに押しつけてぇ~!!」 「す、すみませんすみません!洗い場を探しているのを見つけて私から引き受けたんです!」 「……まぁそうならいいけど、アンタ昼から謝りすぎよ」 「はいすみま…いえ何でもありません!大丈夫です!」 この娘、何だか放っておけない気がする。 まるで犬か猫でも見るような、そんな感情を抱きつつルイズは温かい目でシエスタを見ていた。 「フフッ、まぁいいわ。用はこれだけ?」 「あのですね、これを…」 シエスタの洗濯物をルイズが受け取りながらシエスタが手にした籠から何かを取り出す。 「これって…クックベリーパイ?」 「はい、お昼の時のお礼です。お口に合うかどうか…」 そこにはルイズの好物であるクックベリーパイがまるまる一ホール乗ったお皿が合った。 焼きたてのようでベリーの甘酸っぱい匂いとパイ生地の香ばしい香りがふんわりと鼻をくすぐる。 「あら、中々おいしそうじゃない。お茶淹れてくれる?」 「はい!只今」 シエスタが部屋を出た後、ルイズがテーブルにクックベリーパイを置いた。 このクックベリーパイ、自身の大好物であるためちょっと顔がにやついている。 「好きなのか?それ」 「あげないわよ~ガンダム」 「…俺は別に食べたいとは言ってないぞ」 ルイズのほくほくした顔を見てとりあえず自分の提案が正しかったと感じるゼロ。 しばらくするとカップとティーポット、皿にフォークやナイフなどが乗った盆を持ったシエスタがやって来た。 手早くパイを切り分けルイズにパイの乗った皿を置く。 「あの…ゼロさんもいかがですか?」 「いいのよ食べたくないって言ってたし~」 ルイズが嬉しそうな顔でパイを口に運ぶ。 「マルトーさんが忙しかったので、私が代わりに作ったのですが…お味のほうは…」 神妙な顔で味わっているルイズにシエスタは恐る恐る味を聞いてみた。 「……」 「…おいしい、おいしいわシエスタ!」 「あぁ…っ、ありがとうございます!」 シエスタの顔が瞬間的にパァッと明るくなった。 にやけた顔でパイを口に運ぶルイズと幸せそうな顔でルイズを見つめるシエスタ。 「クックベリーパイ、お好きなんですよね。ゼロさんから聞きました」 「あれ?そんな事は別に言ってないような……」 「何、今朝方お前が寝言で言っていたのを聞いただけだ」 「……こンの使い魔ぁ~!」 「黙って食え、折角シエスタがお前の為に焼いたんだ」 「し、仕方ないわねぇ。今回はこれで勘弁してやるんだから」 パイの美味しさに頬を緩めたりゼロの言葉に怒ったりころころと表情を変えるルイズと ルイズから美味しいという言葉を貰い微笑みながらやれお茶のおかわりだの彼女に世話を焼くシエスタ。 授業の爆発騒ぎにギーシュとの決闘と、今日は騒ぎが多かったなと思い返しながら二人を見守っているゼロ。 その時、また部屋のドアをノックする音が聞こえた。 「今度は誰?」 ルイズがドアを開けるとギーシュが立っていた、流石にいつもの調子ではなくちょっとバツが悪そうだ。 よく見ると頬が掌の形に赤くなっている 「や、やぁ…ルイズ…」 ルイズの幸せそうな顔が一気に「何しに来たのよ」というしかめっ面になる。 シエスタはやっぱりオロオロしており、ゼロは二人を一瞥して視線を窓の外に向けた。 「決闘に負けたから約束は果たすよ…その、君が最後になってしまったけど……」 「昼間のやり取りは僕が間違っていた、心から謝ろう。あの時はつい調子に乗ってしまったり 正論にカッとして禁止されている決闘を申し込んだり男として情けなかったよ。 決闘に負けた今じゃ……痛いほどよく分かる。」 「ま、反省してるようだし許してやろうかしら。 どうせそのほっぺ、モンモランシーか二股かけた一年の子に引っ叩かれたんでしょ」 「勘がいいね…モンモランシーに昼間の事を全部話した上で謝ったらまた一撃もらったよ… でも“これに懲りたら他の娘に手を出すのはやめてね”って許してくれたんだよ!? モンモランシーは僕を見捨てていなかったんだ!死中に活を見出したよ僕ァ!!」 「うっさいバカップルの片割れ」 「おごっ!!」 「さっきから一体なにやってるのルイ…あらいい匂いね」 「あ、もし良かったらいただきますか?」 「クックベリーパイね、じゃあちょっと頂こうかしら」 「キュ、キュルケェ!あんた私ののクックベリーパイを勝手に食べるんじゃないわよ!」 「あーら、このベリーの赤色はまさに私の髪のような灼熱のような赤だと思わなくて?」 「ギーシュ…遅いと思ったら今度はゼロのルイズに…っ!」 「どう見ても違うよモンモランシー!!僕は謝りに行って…」 「そうよこんなヘタレのキザ、あんたからあげるって言われてもそのままゴミに出す位いらないわ!」 「ギーシュがヘタレのキザだからいらないってぇ!?確かにヘタレでキザだけど聞き捨てならないわ!」 「かばってるようで抉ってるよモンモランシー……」 ルイズがギーシュをローキックでダウンさせている時に、騒ぎを聞きつけたキュルケがやって来て さっきまでルイズが座っていた席でクックベリーパイを味わっている。 そしてギーシュの様子を見に来たモンモランシーが勘違いをしてルイズと口論しており、 蹴飛ばされたギーシュがなだめているが時折二人からどつかれていた。 「やかましいな……だがルイズがいつもの調子に戻ったようだし、良しとするか」 飽きれながらゼロが眺めていたルイズの部屋の様子は、昨夜より少し騒がしく賑やかだった。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1175.html
深夜、宝物庫の扉の前に1人の人影がありました。 巷を賑わしている盗賊、『土くれのフーケ』その人でした。 「物理攻撃が弱点ねぇ・・・冗談じゃないわ。こんなに厚かったら、私のゴーレムで殴ったところで、 どうにもならないじゃないの!」 フーケはミス・ロングビルとして、コルベールがら、さりげなく宝物庫の弱点を聞き出していました。 あらかた聞き出した夜、意気揚々と宝物庫の前まで来ましたが推定5メイルの厚さの壁の前で毒づいていました。 物理攻撃が弱点と聞いていたのですが自分のゴーレムの力では短時間でヒビすらつけられそうにありません。 フーケは頭を抱えていましたが、 あることを思い出してニヤリと笑いました。 「ミス・ヴァリエールの使い魔、あの力を利用できれば・・・」 『土くれのフーケ』はおし殺した様な笑い声を出しながらその場を後にしました。 おとーさんが召喚されてから一ヶ月位たちました。 ルイズ自身気がついてないようですが、大分穏やかになっていました。その理由として、まず生徒達からゼロと言われることが減ったというのもあります。 先日のギーシュとの決闘でおとーさんが凄まじく強いことを生徒達も知っていたからでした。 しかし、おとーさんはその後ギーシュ発の噂のおかげで特に女子(貴族・平民拘らず)から人気でしたし元々あまり喋りませんが面白い行動をしますので恐れられる事はありませんでした。 また、生徒達は知りませんが使い魔なのに娘と思って接しているおとーさんにルイズも心を許し我侭も影を潜め素直になっていました。魔法が使えないのは相変わらずでしたが・・・ 「あらルイズ。今日も仲良いのねぇ」 手を繋いで歩いているルイズとおとーさんにキュルケが声をかけます。 「そう?使い魔と仲良くするのって良い事じゃない?」 ルイズは怒るでもなく恥ずかしがるわけでもなくごくごく普通に答えていました。肩透かしを喰った形のキュルケでしたがその後のルイズの言葉に戸惑いました。 「キュルケの方こそ最近フレイムと一緒の所見ないけど仲良くしてるの?」 「う、うちは放任主義だからいいのよ」 「たまには可愛がらないとすねちゃうわよ~」 ルイズはそう言うとおとーさんとどこかへ行ってしまいました。 (あの娘、前は自分の事で精一杯見たいに力んでたのに・・・周りが見えるようになってるじゃない。あの使い魔を召喚出来たのはルイズにとって良かったみたいね) キュルケはそんな事を考えながらフレイムを探しにいくのでした。 虚無の曜日恒例となったシエスタとコック長のマルトーの『特製デザート』に舌鼓を打ったルイズとおとーさんは腹ごなしに散歩で学院内を歩いていました。 それは、調度宝物庫がある塔の前でおこりました。突然地面が盛り上がると巨大な土のゴーレムになりました。土のゴーレムはルイズ達を見つけると腕を振り上げ攻撃してきました。 「きゃぁぁぁ」 突然の出来事に吃驚して悲鳴を上げるルイズを抱き寄せたおとーさんはそのまま横へと飛ぶのでした。土のゴーレムの攻撃をかわしつつ遠い間合いを取る位置まで来たルイズはおとーさんに下ろしてもらい杖を抜くのでした。 「間違いなく、世間を騒がせてる『土くれのフーケ』だわ」 土のゴーレムの肩に立っている人影を見ながらルイズはそう言いました。 「おとーさんお願い!!私が魔法で援護するから!!!」 ルイズの言葉におとーさんが頷いた時、左手のルーンが輝き始めました。あの時の鎧が出現しおとーさんの身体を包み込みます。 【重装陸戦おとーさんα】 おとーさんは自分よりも大きな土のゴーレムを殴りつけ脇の部分を破壊します。しかし、破壊したそばからすぐに再生されていきます。土のゴーレムもおとーさんを殴りますが多少後ろに下がるのみで傷などはついてないようでした。 一進一退の攻防の中でフーケは舌打ちをしていました。おとーさんに壁を殴らせ壊させようと考えていたのですが思っていたよりもおとーさんが小さく目標の壁に届かないことでした。 その時ルイズは詠唱を終え土のゴーレムに当てるために狙いを定めていました。 間違えておとーさんに当てないためでしたが、運良くおとーさんが土のゴーレムから攻撃を受け後ろに下がり離れました。 「ファイアーボール!!」 ルイズ渾身の魔法は失敗し爆発しました。しかも運が悪いことに土のゴーレムではなく後ろの壁が爆発してヒビが入っています。フーケがそれを見てニヤリと笑いました。 (予定とは違うけど結果オーライってやつかねぇ) フーケは土のゴーレムにヒビが入った箇所を殴らせて壁に穴を開けると素早く中に入りました。ルイズとおとーさんが呆然としていると中からフーケが箱を持って出てきました。 「ありがとよ、お嬢ちゃん。お礼に土くれをくれてやるわ」 そう言うと土のゴーレムをルイズに向けて倒れさせました。咄嗟におとーさんがルイズと土のゴーレムに割って入り、ルイズは目を瞑りました。 ルイズが目を開けると空中にいました。タバサのシルフィードに掴まれて助けられていたのでした。 「ルイズ面白そうな事してるじゃない」 キュルケが上から声をかけます。 「キュルケ!!どうして??」 「あんなに大きな音してたら誰だって気がつくわよ。ね~、タバサ」 タバサは無言で頷くとシルフィードに命じてルイズを背中に移動させるとフーケを追跡し始めました。 「ちょっと、おとーさんを助けないと」 ルイズが叫びます。おとーさんは土のゴーレムの下敷きとなり埋もれていましたがタバサが冷静にいいました。 「おとーさんなら大丈夫」 キュルケも続けます。 「あなたの使い魔があれしきの事でくたばったりしないわ!それよりあんな目にあわせた盗賊を捕まえないとね」 ルイズが心配そうに振り返る中、三人は空から追跡するのでした・・・・
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/121.html
使い魔って大変だの段 三人がルイズに呼び出されてもう3日になる。もし、普通の人間だったら呼び出された時点でパニックに陥っていたかも知れないが、三人はそれなりにここの生活に適応していた まず、ルイズよりも早く起きて、着替えの服を準備する。洗濯をする。部屋の掃除をする。その他。三人はしっかりと仕事をこなしていた。それなりの理由があったのだ。 ふぁ~あとあくびをする。今日は乱太郎が最初に目を覚ました。 「おい、起きてよきりちゃん、しんべえ。早くしないとまたご飯抜きにされちゃうよ」 乱太郎はそう言うとはいまだ平和な寝息をたてている二人の体を揺すった。 「もう食べられない。お腹いっぱい。タニシプリン」 「金だ、金が降ってくる。わひゃわひゃ」 どうやら寝ぼけているようだ。可哀想だが無理にでも起こすしかない。 三人が仕えることになってしまったこの少女は使い魔が自分よりも遅く起きることを許さない。昨日は一応それが原因で夕飯抜きを宣告された。 乱太郎は眼鏡をかけ、カーテンを開けた。太陽が眩しい。きり丸としんべえがのろのろと起きた 「さてと」 乱太郎はルイズに声をかけた。 「朝ですよルイズさん」 ルイズがベッドから出る前にクローゼットから下着を取り出して手渡し、着替えを手伝う。 初めはずいぶん緊張したが慣れてしまった。まだ顔を背けながら作業する乱太郎であったが。 乱太郎が職務をこなしている間きり丸としんべえは部屋の隅に立っていた。 完全に目が覚めていないのだろう、かろうじて意識を保っている状態だ。目が虚ろである。 着替えを終えたルイズが部屋から出ていくと乱太郎はぼうっとしている二人をつついて後に続いた。 どうやら朝ご飯は抜かれなくて済みそうだ。 ルイズの後について食堂に向かう途中のこと。 「はぁ~あ、給料くれないんじゃ働く気も起きないなぁー」 「僕お腹すいて死にそう」 しんべえだけでなく三人とも腹ペコであった。何しろ昨日の夕飯を食べていないのだから。ふと思い出したようにきり丸が言った。 「そういや、しんべえあの子のあだ名知ってるか?なんでも『ゼロのルイズ』っていうらしいぜ」 「こら、きりちゃんそれ言っちゃだめ。ルイズさんすごく嫌がってたから」 慌てて乱太郎はルイズをうかがったが聞こえていないようだ。ルイズの機嫌を損ねる事はなるべく避けたい。 でないとまた飯抜きの刑に処されることになる。 「だってよー、魔法使いのくせに魔法が使えないなんて道具が使えないドラえもん、サイコキネシスが使えないミュウツーみたいなもんだろ」 乱太郎は止めようとしたがなおもきり丸は続けた。 「あ~あ、ケチくさい上に魔法が使えないなんてなぁ。なんのために毎日働いてやってんだか」 「ちょっときりちゃん、声が大きいよ。そろそろやめなよ」 「いや、まてよ。魔法が使えない魔法使い・・・・・・、これで歌でも作ったら案外儲かっちゃったりして」 「人は呪文を紡ぎながら魔法を創る~♪魔法なんて出来ないまま私は生きる~♪」 きり丸は上機嫌だった。CD化、漫画化、ドラマ化。一体どれ程の儲けになるだろうか。成功すれば億万長者も夢じゃない。 しかし、きり丸の妄想はそこで打ち切られた。何かにぶつかった。どうやら急に立ち止まったしんべえにぶつかってしまったようだ。 「どうしたしんべえ?」 しんべえは答えない。見ると震えながら固まっている。なんと隣の乱太郎もである。二人の視線をたどると・・・・・ルイズがいた。わなわなと震え、青筋をたてている。 どうやら自分は気付かれているとも知らずに言いたい放題喋ってしまったらしい。さすがのきり丸も身じろぎできなくなる。 これまでも何度か怒られたことはあったが、ここまで迫力のあったルイズは初めてだ。 「あたしがケチくさいって?そうね、今までご褒美の一つもあげなかったもんね」 ルイズの声は不気味なくらい落ち着いていた。 「ゼロで悪かったわね!」 三人はしょんぼりと食堂の前に立っていた。慈悲深い主人は三人に今日一日食事抜きを言いわたした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7690.html
前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪 アルヴィーズの食堂での一件はすぐさまオスマンの耳に届いた。 耳に届いてすぐさま行動に移したが遅かった。 ルイズの使い魔がどの程度の実力を有しているのか。 覗き鏡まで用意して、観る気満々だったのにがっかりした。 「……伝説のガンダールブの実力………」 どよーんとした表情でオールド・オスマンは呟く。 「全然…観れませんでしたね……」 同じく沈んだ表情をしているコルベール。 「……し、しかし幸いなことに食堂での騒動は、多くの生徒達に目撃されておりました! これがアンケート結果です! 聞きますか!?」 コルベールが元気良く提案する。 「おぉ! 本当かね! 良くやったぞコルベール君! で、ガンダールブ(仮)の戦いぶりはどうだったと言っているのじゃ!?」 コルベールの気の利いた行動にオスマンは顔をパァッと輝かせる。 ベールに包まれていたガンダールブかもしれない男の片鱗を垣間見ることが出来るかもしれない。 オスマンの心は期待に満ちて、コルベールがアンケート結果を読み上げるのを待ち構えた。 「ごほん では読みます。 え~まず国内某所出身、風ッ引きさん。 『とにかくギーシュがボコボコにされていた。 殺されそうな感じだった。 チンピラにいじめられているようにしか見えなかった。いじめはかっこ悪いなと思った。超こわい。』 ………だそうです」 チラ コルベールはオスマンを見る。 オスマンは俯いていた。 「…えーーー では気を取り直して次。 国外某所出身、情熱タイフーンさん。 『とても強くてワイルドでノリが良くて素敵。 あんな男性に迫られたら 断りきれない。 彼の顔を見るだけ私の心は燃え上がり、胸の奥がざわめくの。 どうしたら彼が私に微笑みかけてくれるのかしら。 彼のことが知りたい。 何が好きなのか。 どんな食べ物を好むのか。 どんな本を読むのか。 どんな顔をして眠るのか。 ああ 彼が頭から いいえ 心から離れない。 これが本当の恋。 こんなのは初めてなの。』 ……………………ははは ダメだこれ」 チラ コルベールはオスマンを見る。 オスマンは無表情でコルベールを見つめていた。 「………次次! 次いきましょう。 んん ごほん 国内出身の腋の下の素晴らしきカホリさん。 『浮気をした罰だと思う。 いい気味だなと思った。 だいたいあんな女のどこがいいのか理解できない。 もっといい女が目の前にいると言うのに信じられない。 天罰ってあるんだな。 彼は私の願いを叶えてくれたからいい人だと思う。 見た目は少しアレだが、人を見た目で判断してはならないという教えだ。』 ……いやーまいったまいった。 どんな戦い方をしたのかって名目でアンケートとったんですがねー」 チラ コルベールはオスマンを見る。 オスマンはコルベールの頭をみて舌打ちをして、その後ゆっくり視線を上にずらしていった。 「………まだあるんですよ! ははは 行きますよ! 国外出身の戦闘妖精さんからです。 『戦闘の分析結果をむざむざ他人に教える愚挙はしない。 情報とは戦場にあって何よりも尊いものであって、それを完全な信頼関係に無い第三者に求めるとは滑稽である。』 ………だそうです。 いやぁ いいこと言いますね この子」 チラ コルベールはオスマンを見る。 オスマンは手近にあった紙で折り紙をしていた。 少し涙目だ。 「あの……オールド・オスマン? えーと まだ……あるんですが アンケート………もう…いいですよね これ はは」 コルベールは朗らかに笑う。 自分もアンケート用紙で折り紙を始める。 学院長室で老人と剥げた中年は楽しそうだった。 今日も二人は平和だった。 みゅーん、みゅーん、みゅーん。 ルイズは泣いていた。 独り部屋に篭り、大きな瞳を潤ませベッドの中で枕をしとどに濡らしていた。 「うぅ ぐずっ う、うう えぐ えぐ ぐず あ、あのばがい゛ぬ゛ぅぅぅぅ! ぐす 他の女と…… う、うぅぅううう」 ルイズはシエスタにKO負けを喫した後、フラフラの足取りで何とか自室まで戻っていた。 自分にあんな濃厚なキスを三回もしておいて、他所に女を作っていた。 召喚してまだちょっとしか経ってないのに。 しかも平民。 おっぱいが少しばかり大きい可愛い平民。 自分は! ナニは小さくとも立派な貴族だ。 家柄で言えば、ここトリステインでも一、二を争う大貴族なのだ。 アイツの御主人様なのだ。 アイツは私のもので然るべきであって、浮気だなんて………! 浮気だなんてッ!! ん? ん~~~~。 まて。 まてまてまてまて。 ちょっとおかしい。 浮気? (う、ううううう浮気って…! 何を言ってるの私! ヤ、ヤンとはこ、ここここここ恋人とか…! そういうんじゃないし! ち、違うんだから! あ……だったらあの平民と付き合っていても……ってダメよ! 絶対ダメ!! え、え~と…そうよ! ヴァリエール家の三女であるこの私の使い魔が! 平民風情の女なんかとそーゆー関係になられたら、ヴァリエールの家名にも傷がつくのよ!! ええそうよ! 絶対そうなのよ! ……………でも………………こ、恋人かぁ……恋人になるってことはいずれ、け、けけけ結婚とか当然するのよね……………ヤンと……結婚かぁ……… アイツが結婚って……ちょっと想像しがたいわね……家で大人しくできそうな奴じゃないし…………………も、もももももしもよ!? もしもの話……… 赤ちゃんができたら…喜ぶかしら? ………うーーーん……あんまり喜びそうも無いわね……子どもなんか知ったこっちゃネェーーッとか言い出しそう…… でもそんなの許さないわ! しっかり父親としての自覚を持ってもらわなくちゃ! とりあえず無茶しないようにさせて……教養を身に付けさせないと…… 貴族のマナーも一から教え込まないといけないわね! 道のりは遠いわ……………でも案外、子煩悩なパパになったりして………………えへへ……… って違う! 違~~~~うッ!!! なに言ってるのよ私! しっかりしなさい私! アイツはちょっと強いだけの平民の使い魔! ありえないのッ!!) 枕に顔を埋めたままなので表情は隠れているものの、耳まで真っ赤にしながら足をバタつかして悶える。 (………はぁーー……………あの馬鹿犬……………本当に恋人なのかな……) 再びシュンっとなった。 「クククククク 忙しいヤツだなぁ? さっきから見てて飽きネーぜ ナァニやってんだ?」 バッ 聞きなれた声にベッドから飛び起きるルイズ。 「ヤ、ヤヤヤヤヤヤン!? ど、どこにいるのよ!!? って、ぎゃーーーーーーーーーーーーー!!」 真横にいた。 「ち、近ッ! 近すぎるわよ! ていうかいつの間に部屋に入ってきたのよ! イツから居たのよ! なんで居るのよ!」 一気に後ずさる。 とっさに片手でシーツで体を隠すように覆う。 「耳元でウルセー! 俺の方がビックリしたわ! ……なんでいるって……ココは俺の部屋でもあるから…じゃね? んでタイミングとしてはオメェより先に部屋にいたんだけど」 「ハァ!? う、嘘!? ずっと居た!? え、ええ!!? 見てたの!? ずっと見てたの!!!?」 ルイズは顔を朱に染めて慌てふためいている。 「あーー見てたって……そりゃー視界に入るべ 普通。 オメェがぐずぐず泣きながら、他の女とぉ~~って言ってたり、馬鹿犬ぅ~~って言ってたり?」 ヤンは眉根を寄せ目を見開き口を嫌な感じに突き出し歯をむき出しながら喋る。 ようは人をバカにしている顔である。 「ア、ア、ア、アンタねぇーーー!! どこに居たのよ! そして居たんなら声ぐらいかけなさいよッ!!! 黙ってみてるなんて趣味悪いわよ!!!」 「バカかテメー 声かけたっつの オメェの椅子に座りながら机に足伸ばして おかえりルイズちゃーん♪ ってしっかり言ったっつーの。 またぎゃいのぎゃいのマナーが悪いとか何とか言うかと思ったのに、逆にコッチがシカトされたかと思って寂しかったぜぇ?」 ヤンは相変わらず人を小バカにしたような大袈裟な仕草。 実際バカにしているのだが「寂しい」の一言にルイズは反応した。 「え? さ、寂しい? その……………私に無視されたかと思って……寂しかったって…こと……?」 ルイズは頬を染め、少し嬉しそうにも見える。 「は? あ、ああ まぁ…そういうこと、か?」 部屋に入って来た時もそうだったが、またもやヤンの予想とは違う反応が返ってきた。 コッチの言葉にいちいち丁寧にガーガー喚いて反応するのが楽しかったのに。 つまらない。なんだか調子が狂ってしまう。 「へ、へぇー ……ふぅーん ……そ、そうなんだ………そうなんだー」 ルイズの顔はやはり嬉しそうだ。 今では少しニヤついている。 なんだか自己完結したようだ。 だがそこでまた表情が変わる。 「あ! そういえばアンタ、どうやって部屋に入ったのよ!? 鍵は渡してないのに!」 ルイズにはヤンに鍵を渡した記憶はこれっぽっちも無かった。 「あー? 持ってるぜ? ほれ」 ヤンはもぞもぞと上ジャージのポケットから鍵を取り出す。 それは紛れも無くルイズの部屋の鍵だった。 「あーーーー! なんで!? なんでヤンが私の部屋の鍵を持ってるのよ! どこで手に入れたの!?」 「シエスタから貰った」 「な、なんですって!? あのメイド……! 貴族様の鍵を勝手に………!!」 部屋の鍵は、いずれ自分の手でヤンに渡そうと思っていたのに…! ルイズには、あの平民のメイドが自分の前に立ちふさがり続ける大敵に思えてきた。 敵はツェルプストーではなくあのメイドだったのだ。 冷静に考えれば他人の部屋の鍵を勝手に譲渡するのは大分やばい気がするが。 (あのメイド! 勝手に他人様の鍵を、使い魔と主人という関係とはいえ渡すなんて良識を疑うわ! ……でもウカウカしてられない! このままじゃヤンが あのメイドを頼りきりにしてしまう……! これ以上ヤンとシエスタの距離を縮めさせないわ!) 「ヤンッッ!!!」 ルイズは鬼のような形相で叫ぶ。 「うお!? どうした ブッサイクな面して?」 ヤンの悪口にも眉一つ動かさずルイズは宣言する。 「明日はちょうど虚無の日よ アンタの今までの功績に免じてご褒美をあげるわ! 街に行くからついてくるのよ いいわね! 私お風呂入ってくるから!」 まさに有無も言わさず、といった感じで言い放ちルイズはさっさと部屋を出て行ってしまった。 「な、なんだぁ? 虚無の日ってなんだ? アイツにご褒美貰うような功績って…………何かあったっけ? つーかまだ昼だぞ 学校いいのかアイツ?」 ヤンはルイズのベッドにボフッと倒れこんだ。 「あーつまんねー」 そう呟いてヤンは昼寝の体勢に入ったのだった。 夜、ヤンは寮の屋根に寝転んでいた。 昼間に堂々と主人のベッドで寝ていたヤンは、案の定ルイズに爆破され部屋から叩き出された。 しばらく外で頭を冷やして来いと怒鳴られた。 (あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 血ぃ吸いたい 喰いてぇ 女欲しい。 どれもご無沙汰だーーーーー あーにーきー 誰にもばれなきゃ喰っちゃってイイ? 犯っちゃってイイ?) ヤンは左手をぺしぺし叩きながら頭の中で聞いてみる。 ……。 ………。 返事が無い。ただの屍のようだ。 って屍じゃ困るんだよ。 俺の左手だし。 「おーーい 兄ちゃん 聞こえてますか? アローアロー? もしもーし」 ぷらぷらぷらー。 今度はシェイクする。 「もーしもーし あんちゃーーん 聞こえねーのかよ おい 生キテルー?」 「…………うるさいぞ 聞こえている」 ルークの声が左手から響いた! 「お!? おぉーーー! スゲーーーー 本当に兄ちゃんだーーー しかも今回は直接、頭に響いてねー。 普通に会話できんのか?」 ヤンは寝っ転がりながら左手を空に掲げて、兄と会話をする。 「当然だ。 私の空間にオマエを引きずり込むことも出来るし、リアルタイムで声を出さずに会話も出来る。 今のように話すことも可能だ」 「ほーーーー へぇーーーーー スゲースゲー! しかも喋る度にちょっとルーンが光ってカッコイイじゃん? へへへ 兄貴やるぅーー」 ヤンは屈託無く笑う。 死んだとばかり思っていた兄が、こうして自分の左手として生きていた?ことを実感し少し喜びを感じる。 傍若無人、冷酷無比、残虐非道。 こういった言葉がとても良く似合い、必要とあらばお互いがお互いを切り捨てられる、殺せる。 そういう兄弟だが、やはり嬉しいものなのだ。 弟の賞賛にいくらか気を良くしたルークは、表情が見えるとしたらニンマリといった感じだ。 「……ふふん 私はガンダールブの精なのだ 只のインスタントとは違う。 ところで先程のオマエの提案だが……」 「おー そうだよ兄ちゃん! オレ腹減って死にそうだぜェ! 普通の食べモンしか食ってねーんだぜ? 兄貴ならこの辛さ分かるだろォ?」 ヤンの願いは切実だ。 もともとヤンは我慢とか忍耐といった言葉が大嫌いなのだ。 「……まぁ吸血鬼にとっては確かに辛いな。 私もオマエの性質(タチ)は分からないでもない。 あまり断食されて、 いざと言う時ルイズ様をお護り出来なくても困りモノだ。 ………まぁあまりルイズ様に近しい者でなければな………。 健康な生活は良く『遊び』良く『喰べ』良く眠ることから始まる……といった所か… 食料には良く目星を付けることだ……」 ルークの声は淡々としている。 ルイズ以外は食料か玩具である、と言わんばかりの冷淡さだ。 「クックックッ…… そぉだよなァァァァ ソコ気を付ければオッケーだよなァァァ! 持つべきは兄弟ってか? ヒャハハハアハハヒャハハ!!」 ヤンは嗤う。 兄弟の会話を楽しむ。 「フッ あまりはしゃいでボロを出すなよ? ルイズ様にばれる様なことがあっても許さんぞ…………ん? ちょっと待て」 「あ? どうした兄貴? ダイジョーブだよぉーー ありえねぇーありえねぇー ルイズになんかバレるわきゃネーだろ?」 「声を落とせ 何かが近づいてくる。 ……正体がばれぬ様くれぐれも気を付けろよ……」 …。 ……。 それきりルークの声は聞こえなくなり、ルーンの光も消えた。 そしてルークの言った通りしばらくすると、屋根の端っこからよじよじと一匹の獣が登ってきた。 尻尾に炎を宿した巨大なヒトカゲ、サラマンダーのフレイムだ。 屋根の上をのそのそとヤンに近づいてくる。 「おーー? フレイムじゃねーか こんなとこまで良く登れたなァー わざわざオレに会いに来たのか? オメーには嫌われてると思ってたけどなぁ。 いや、怖がられてる…の間違いか? ヒャハハハ!」 フレイムとて出来ればヤンには近づきたくなかった。 好き好んで虎の前に出る兎は居ない。 だがヤンを探し出し、連れて行くことは主人の…すなわちキュルケの命令なのだ。 使い魔として果たさなければならなかった。 クイックイッ フレイムはヤンのジャージの裾を咥えて引っ張る。 それだけなのにフレイムはガチガチに緊張していた。 「ん? なんだ? ついて来いってか?」 コクッコクッ フレイムは必死に頷く。 汗だくだ。 まるで札付きの不良の先輩を、先生に言われて呼びに行く善良な後輩である。 見てるだけで涙ぐましい。というか痛ましい。 絶対やりたくない。 「………わーったよ どこに行くんだ? キュルケの部屋か?」 コクッコクッ! フレイムは本当に必死だ。 だって機嫌を損ねたら本当に殺してきそうな人だから。ヤンという人は。 「………クククク そんなにビビんなよ? オメーもオメーの御主人様も……別にとって喰いやしねぇからよ?」 お勤めゴクローさん。 そう言ってヤンはフレイムの頭を軽くポンポンっと叩いて屋根から飛び降りていった。 なんだかフレイムはドッと疲れたのだった。 「で、ここだよな キュルケの部屋は? ルイズの隣だもんな」 ヤンは独り呟くと扉をノックする。 ドンドンドン 「キュルケー ヤンだよー オマエの愛しい人のヤンだよーー 今帰ったよーーー」 ガチャ 「お 独りでに開いた 自動ドアか スゲーな」 ヤンは部屋に入る。 部屋は真っ暗だった。 が、吸血鬼であるヤンは夜目がとても良く利く。 なのでベビードールの際どい衣装で目を潤ませ、ベッドの上で待つキュルケがすぐさま確認できた。 ヒュ~♪ ヤンは思わず口笛を吹いた。 美女が自分を求めている。 一目でわかるこの状況。 それだけで、とりあえずごちそうさまって感じだった。 ヤンはずかずかキュルケに向かって歩く。歩く。 それに合わせてサイドで蝋燭の火が灯っていくが気にしない。 ヤンの目にはキュルケしか写っていなかった。 すでにキュルケは目の前だった。 キュルケの瞳にもまた、ヤンしか写っていなかった。 「……ごめんなさい……いきなり呼んで……私のこと………はしたない女だと…思う……?」 キュルケは頬を染めてヤンに尋ねる。 「いいや まったく思わネェなァ…… 自分に正直なのはイイことだ やっぱり俺と気が合いそうだなァあ? キュルケ ……オメェはいい女だ……」 飾り気の無いストレートな生の賞賛。 ヤンの言葉にキュルケの心は今まで感じたことの無い高ぶりと喜びを覚えた。 それに比べれば、自分が今まで言っていた恋だの愛だのはメルヘンな子供だましだと感じた。 (クッ、クックッククククク、ヒャッハッハッハハハ! こいつぁタマランぜ! これで喰えればマジ最高なんだけどよォ!! チックショォォォォがぁぁぁぁぁ…… キュルケはちぃっとばかしルイズに近すぎるぜ……! 喰いてぇーー! だが今日はとりあえずコレで良しってことにするか……) ドンッ ヤンはキュルケをそのまま押し倒す。 「キャッ! あ…ヤン…その……や、優しくお願いね……?」 「クッククク……ああ…任せな……優しく可愛がってやるよ? ……たっぷり…なァ……!」 そう言って下卑た笑みを浮かべ、舌舐め擦りをする。 ヤンのギラついた、欲望を欠片も隠そうともしない獣の瞳がキュルケを貫く。 (あ……この目……このワイルドさが……素敵……) そして夜は更けてゆくのだった。 その頃ルイズは…。 ベッドで爆睡していた。 この馬鹿犬ぅ~~…むにゃむにゃ…。 同時刻フレイム。 キュルケの「元」男達の掃討に勤しんでいた。 フレイムはもう泣きたかった。 今ぐらい泣いてもバチはあたらないだろう。 そうだよね! 火竜山脈のかーちゃん! 今日も学園は平和だった。 死人が一人もでなかったという点では。 明日も平和かどうかは誰にも分からなかった。 前ページ次ページルイズとヤンの人情紙吹雪
https://w.atwiki.jp/bjkurobutasaba/pages/329.html
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール かわいい たしかに くぎゅうううううううううううううううううううううううううう!!!!! -- ハルケギニアまで届け (2013-07-26 13 37 32) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/302.html
朝、目が覚めたキュルケは着替えを終えると鏡の前に座り、化粧を始める 今日は虚無の日、休日である 確実に誘惑するにはどんなメイクをしようかと、考えながら鼻唄をする 化粧を終え、自分の部屋を出て、ルイズの部屋のドアを開けたが空っぽであった 「相変わらず色気の無い部屋ね。それにしてもダーリンは何処へ行ったの?」 すると外からヒヒーンっという声が聞こえてきた 窓から覗くと二頭の馬とそれを引っ張る二人、ロムとルイズだ 「おっと!頬を舐めるのは止めてくれないか?そうだ、ははっ可愛いな」 「あんた馬に乗った事あるの?」 「いやないな。俺の世界には動物に変形できる者もいるが」 「なんでもありねあんたの世界は・・・・、さあ行くわよ」 二人は馬に股がり走って学院を後にした 「あの二人・・・・、街へ行くのね!こうしちゃいられないわ!」 キュルケはそう言って部屋を後にした。 タバサは虚無の日が好きだ、読書によって自分の世界が形成できる日、彼女にとってはそれ以外は他人と戯れるありふれた世界である この日も自分の回りに音を消す魔法、『サイレント』をかけて何時もの世界と自分を遮断して自分の世界に入り浸る そんな自分を元の世界に引き戻す者が表れる キュルケだった 彼女は自分の部屋の鍵を禁止されているはずの『アンロック』で解除して入ってきた 慌てた様子で彼女は大袈裟に声を出すモーションをとっている 本来なら自分の読書を邪魔する者は『ウインド・ブレイク』で吹き飛ばすのだが、相手は数少ない友人のキュルケである しかたなく、タバサは本を閉じて魔法を解除した 「タバサ。今から出かけるわよ!早く支度して頂戴!」 「虚無の曜日」 「わかっている、貴方にとって虚無の曜日がどんな日だか痛い程知っている でも今はそんなけと言ってられないの。恋なのよ恋!」 会話からどれだけこの二人が対照的なのかがよくわかる キュルケは感情で動き、タバサは理屈で動く それぞれを例えるなら火と水のようなものだが何故か仲がよかった 「そうね。あなたは説明しないと動かないよね。 あたしね、恋をしているのよ!あの人に!でもあの人はにっくいヴァリエールと出掛けたの!あたしはそれを追いかけたいのよ!」 それを聞いたタバサはやっとで動きだした 「ありがとう!じゃあ動いてくれるのね!」 少し涙目のキュルケにタバサは頷いた、そして窓を開けて口笛を吹きシルフィードを呼んだ 実の所タバサがキュルケの願いを受け入れたのは2つの理由がある 1つはキュルケが親友であること いつも一緒にいる友人のだから共に助け合うのが筋なのだろうか もう1つは彼女の追跡対象があのルイズの使い魔であることである ギーシュとの決闘で彼はとんでもない物を見せてくれた 平民でありながら風の塔の上に立ち、名乗り、飛び降りる そしてゴーレムを自らの拳と脚で砕く、魔法を使わずしてそんな平民見た事がない あの時タバサは本で読むようなリアリティを生で感じる事によって彼に興味を持ったのだ 今日も何か面白い物を見せてくれるかもしれない 理由はそれで十分であった 二人を背に乗せてドラゴンはばっさばっさと力強く羽ばたき、宙を浮いた 「いつ見てもあなたのシルフィードには惚れ惚れするわ」 キュルケが赤い髪を靡かせ感嘆の声をあげる 「どっち?」 タバサが尋ねる 「わかんない・・・・慌ててたから」 そしてタバサが命じる 「馬二頭、食べちゃだめ」 シルフィードは小さく鳴いて、蒼い鱗を輝かせ、空を泳ぐように翔んだ 一方学院の宝物庫の前に一人の女性、ミス・ロングビルが立っていた 鉄でできた巨大な扉を見上げ手を当て、慎重に辺りを見回した後ポケットから杖を取り出すと呪文を呟きそれを振る しかしバチッと電撃の様なものが走る 「どうやらアンロックは効かないようね・・・・この調子だと『錬金』も効かないようですし、さて、どうしましょ」 扉を見つめていると足音が聞こえてきた 一週間前より激務で禿げてしまったコルベールであった 「おやミス・ロングビルこんな所でなにを」 「あらミスタ・コルベール、実は・・・・宝物庫の目録を作っておりまして」 いや、それは大変ですなぁと禿げがテカるコルベールが笑う そしてロングビルは少しくだけた感じで話し、尋ねた 「ねえ、ミスタ・コルベール」 「はっはい、なんでしょうか」 ハゲコルベールが少し惑った感じで聞く 「宝物庫の中に入った事はありまして?」 「ありますとも」 「では、・・・・をご存知で」 「いやぁ、それが見た事があると言えばあるのですが何やら他のガラクタ、もとい宝と比べると厳重に保管されてましてな」 「それで・・・・?」 「恐ろしくてちゃんと見た事がないのですよ」 ロングビルはふむ・・・・と呟く 「わかりました、とても参考になりました。ではまた昼食の時間に」 「あ、はいそれでは」 (やはり強攻突破しかないようね、タイミングは今夜。ウフフ、一体どんなお宝なのかしら?) (それにしても綺麗だった、昼食も楽しみですな) それにしてもこの禿げのオッサン、迂濶である 所変わってそこはトリステインの城下町 ロムはルイズと人が賑わう道を歩いていた 貴族らしい格好が見当たらないので殆んどが平民の様である 老若男女が歩き、走り、喋り、それぞれ店を持ち、果物や肉や、篭を売る人たちで賑わう 「売っている物は違えどどの世界でも街は賑わうものなのだな」 「そんなの当たり前でしょ、じゃあ早速武器屋に行くわよ」 どんどん進んでいくと回りに看板が増えていく ×印の看板だったり薬瓶の看板だったり様々だ 「商売人は立派ね、あんな物まで売るなんて あっあれよ!」 ルイズが目の前の剣の形の看板を下げた店に指をさす 「あ~あ暇だねぇ、こんなに天気がいい日に金貨をドーンと置いて行く気前のいい客は」 「客よ、ちょっといいかしら」 (本当に来やがった!)「い、いらっしゃいまし貴族様!この店になんの様で・・・・」 「剣を買いに来たに決まっているじゃない。あいつに合った剣を探してほしいんだけど」 ロムは店の中にある剣を真剣な目付きで眺めている そんな様子を見て店主はニヤリと笑う 「お連れの騎士様は?」 「剣が欲しくて欲しくて堪らないから私が買ってあげる事にしたのよ」 「これは何という慈悲深い貴族様!いや~そんな貴女にはきっと民衆は尊敬するでしょう!」 ルイズが少しにやける、満更でもないようだ (こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい高く売り付けようか) 「店長!少し聞きたい事がある!」 突然のロムの大声に驚く主人 「な、なんでしょうか」 少しおどけた感じで聞く 「この店には狼の印が入った剣はあるか」 「狼の印ですかい?いや~そんな物はないですねい」 「そうか・・・・、すまん邪魔したな」 ロムは店から出ようとするがルイズに引き留められる 「ちょっと!折角人が買ってあげるって言っているのにそれは無いでしょ!」 「しかし目的の物がなければ仕方ない・・・・」 「か・い・な・さ・い!嫌ならまたドカンよ!」 ロムはギクッとした顔を見せた後 「見ていこう」 あっさり落ちた 「も~ダーリンったら何処へ行ったの!?」 後を追って街に着いたキュルケとタバサ 「このままじゃルイズに先を越されるじゃないの~」 っとキュルケが喚いているとタバサが顔の前に杖を出す 「・・・・あれ」 「あれ・・・・ってダーリンとルイズ!?」 武器屋からルイズとロムが出てきた、ロムは腰に鞘を付けて手に持った剣を眺めていた 「ゼロのルイズったら~!私にダーリンとられたくないからってプレゼントで気を引くつもりね! こうしちゃいられないわ!タバサ、ここでちょっと待っててね!!」 キュルケは武器屋に向かって走っていき、タバサふう、と息を吐いて再び本を読み始めた 「あんた本当にそんなボロい剣でよかったの?」 ロムに向かって少し呆れたような声を出すルイズ、すると 「ボロいボロいうるせえな娘っ子!こちとら伊達に長生きしてねぇんだぞ!」 なんとロムの持つ錆びた剣から声が出てきたではないか 「なんですってー!このボロ剣!」 「二人とも落ち着け、とにかくこれから宜しく頼むなデルフリンガー」 「おうよ相棒!へへっやっぱり強い奴が主人だと気分がいいな!」 この喋るボロ剣、デルフリンガーのこと魔剣インテリジェンスソードを買ったのはこのような経緯があった 店の主人はルイズが貴族である事を良い事に大剣を市場相場では有り得ない値段で売りさばこうとしていた。 それでルイズが主人に交渉している時、突然声が聞こえた 「おい、そんなん買わねえ方がいいぞ。そこの親父はがめついからてめえらからぼったくるつもりなんだよ」 ルイズとロムは思わず声の出所に振り向いたが、誰もいなかったので不思議に思っていると主人が突然怒鳴った 「やい!デル公!お客様に失礼な事を言うんじゃねぇ! 貴族に頼んでドロドロに溶かしてやるぞ!」 「やってみやがれ!どうせこの世にゃ飽きた所だ!」 「それってインテリジェンスソード?」 ルイズが当惑しながら尋ねる 「そうでさ若奥様。意思を持つ魔剣インテリジェンスソードでさ。 でも口が悪くて悪くてこいつのせいで何人も客が逃げたことか・・・・」 主人が愚痴を溢していると 「面白そうだな」 っとロムが興味を持ち、喋る剣を手に取った 「おいこらに俺にさわんじゃねぇ・・・・てあれ?」 さっきまでの大声が急に小さくなった 「おでれーた。てめー『使い手』か」 「『使い手』だと?」 「それにかなりの修羅場を越えてやがるな・・・・」 「それはあっている」 「面白ぇ、てめ、俺を買え」 「・・・・わかった、買う、マスターこいつで頼む」 するとルイズが嫌そうな顔になる 「え~~そんなのにするの?もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」 「しゃべる剣なんて面白いじゃないか。俺の世界には人を操る剣はあったがしゃべる剣は無かったぞ」 今さらりとトンでもない事を言った気がしたが・・・・取り敢えず他に録な剣が無いので買うことにした 「あれ、おいくら?」 「百で結構ですわ、あとこれはあいつの鞘、これを付けていれば黙りますぜ」 「じゃあはい、これで」 「毎度」 こうしてルイズとロムは店を後にした この後すぐにキュルケが入店し、彼女のお色気攻撃によって主人は店一番の業物を超格安の値段で泣く泣く手放す事になる 「・・・・所でデルフリンガー」 「なんでい相棒」 「お前は狼の印が付いた剣を知っているか?」 「知らねえな」 「そうか・・・・」 おまけ 食堂にて シエスタ「おかしいわね、ロムさん昼頃になっても会えない・・・・。一体どうしたんだろ」 「昨日は酷い目にあったよ・・・・まさか彼女に燃やされるなんて」 「ああまさかキュルケがあの平民と付き合っているなんて」 シエスタ(ピクッ) 「あの平民許さないよ、きっと彼女はアイツに誘惑されたんだ」 シエスタ(ピクッピクッ) 「でも彼女は強い人が好きだなんて言っていたからな・・・・」 「いるわけがいないよなぁ、風の塔から飛び降りる平民なんて」 シエスタ(!!!!) 「僕も『フリッグの舞踏会』で風の塔から飛び降りたら彼女は振り向いてくれるかなぁ」 「それじゃ足が折れて踊れないだろ」 「問題はそれじゃない、あそこから落ちたら死んじゃうから!」 「ハハハハハハハ」 シエスタ(・・・・・・・・・・・・) 続く?